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アイツが裏で手を引いてやがったのか
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そんな感じに神聖帝国側が一件落着になるまでの期間中、パンノニア王国側は戦々恐々だった。何せ神聖帝国の皇太子が危うく服毒しかけたんだ。その責任を問われて軍を差し向けられてもおかしくなかったからな。
調査は意外にもヤーノシュ王太子主導で行われた。アイツが指揮取って都合が悪い事実を闇に葬りつつ事件を迷宮入りさせる、なんて疑ってもいたんだが、なんと王太子は覚醒したって周りから言われるぐらい率先して事実の解明に努めたんだよな。
「いいのか? ヤーノシュの地位を安泰させるための企みだったって推測してるんだが」
「勝手にやったことでこっちが疑われてるんだ。いい迷惑さ。足を引っ張るような馬鹿は僕の傍に必要無いね」
あと仲が悪かった王太子とイストバーン様が手を組んだのは大騒ぎになった。王太子が一方的にイストバーン様を敵視していたのに方針大転換だーとかでさ。しかも王太子の方から力を貸してくれと王太子に要請したんだから驚きだよな。
王太子曰く、それはそれ、これはこれ、なんだとか。余裕が無い時は頭を切り替えて自分の好き嫌いを飲み込むんだと。詫びもなしに都合がいいなオイ、とは思ったものの、その見極めの良さには関心してしまったな。
「それよりイストバーンは自分に降りかかる火の粉ぐらい払えよ」
「分かってるって。さすがに殺されかけたのに疑われるのは腹が立つからな」
なお、イストバーン様は王太子派閥の一部貴族から自作自演を疑われている。何でかっつーと、エリクサーを使って彼を救ったのが彼お抱えの女官であるあたしだったから。命が保証されてるから王太子の信頼を失墜させるために無謀な真似したんだろ、とか。
「しかもギゼラまで疑ってきやがって……!」
それを聞いた時は思わず大声を上げちまったし、そんな憶測を口にした奴をぶん殴りたい衝動に駆られたもんだが、あたしの代わりにイストバーン様が怒ってくれた。なもので嬉しさの方がこみ上げてくるんだから、あたしったら単純だよな。
「ふーん、珍しいじゃん。イストバーンがそんな感情剥き出しにするなんてさ」
「ヤーノシュもバルバラ嬢が誹謗中傷にさらされたら分かる」
「……へー、イストバーンにとって彼女はそれぐらいなんだ」
「そのニヤケ顔ムカつくから止めろ」
おい馬鹿共止めろ。そんな話はせめてあたしがいねえ所でやれ。
でないと、その、何だ? 恥ずかしいじゃねえか……。
んで、まず二人に酒とグラスを提供した給仕が実行犯だって疑ったんだが、彼は取り調べを受ける前に口の中に仕込んでいた毒で自殺した。奇しくもイストバーン様に仕込んだ毒と同種類だったらしく、あの時少しでも遅かったらと思うとぞっとする。
その動機を調べるべく家宅捜査や周囲への聞き込みをしたんだが、特に現在の王政に不満があるわけではなく、ラインヒルデやイストバーン様個人への恨みもなし。勤務態度や人間関係等も良好。彼は正に絵に書いたような善良な人だったらしいな。
「どう考えてもソイツを裏で操ってた人物がいただろ」
「そうは言うけどな、金銭や手紙のやり取りの跡も見つからなったぞ」
「自殺してまで真相を明かそうとしなかったんだろ。脅されてたんじゃねえの? お前がやんなかったら大切な人を殺す、みたいな感じに」
「……そういえばその給仕、妹が王宮勤めの使用人だったな」
その線から捜査を続行。給仕の様子が最近おかしくなかったか、誰か見かけない人物と接触が無かったか、等を重点的に探った。と同時に給仕が盛った毒の入手元をたどるよう動いていった。
王太子と第一王子の名は絶大で、聴取を受けた者は平民貴族問わず殆どが自分の知ることを喋った。結果、ある日を境に給仕が思い詰めるようになった、との証言に端を発し、ようやく黒幕の尻尾を掴むことに成功した。
その日給仕と接触した文官は、尋問の末に確かに家族を人質に給仕にイストバーン様方を害するよう命令を伝えた、と白状した。そんなソイツは証人保護の約束と引き換えに、とある宮廷女官に命じられた、と明かした。
「で、貴女お抱えの女官を取り調べた末に辿り着いたわけだ」
そうして王太子は近衛兵やイストバーン様達を伴って黒幕と相対したわけだな。
ただ王太子のいつものような自分が偉くて人を小馬鹿にした生意気な態度は完全に鳴りを潜めていた。
まあ、無理もない。相手が相手だったから。
「残念だよ母上。第一王子や神聖帝国皇太子を殺害しようと目論むだなんてね」
と、いった次第でパンノニア王国王妃が逮捕されようとしているわけだ。
調査は意外にもヤーノシュ王太子主導で行われた。アイツが指揮取って都合が悪い事実を闇に葬りつつ事件を迷宮入りさせる、なんて疑ってもいたんだが、なんと王太子は覚醒したって周りから言われるぐらい率先して事実の解明に努めたんだよな。
「いいのか? ヤーノシュの地位を安泰させるための企みだったって推測してるんだが」
「勝手にやったことでこっちが疑われてるんだ。いい迷惑さ。足を引っ張るような馬鹿は僕の傍に必要無いね」
あと仲が悪かった王太子とイストバーン様が手を組んだのは大騒ぎになった。王太子が一方的にイストバーン様を敵視していたのに方針大転換だーとかでさ。しかも王太子の方から力を貸してくれと王太子に要請したんだから驚きだよな。
王太子曰く、それはそれ、これはこれ、なんだとか。余裕が無い時は頭を切り替えて自分の好き嫌いを飲み込むんだと。詫びもなしに都合がいいなオイ、とは思ったものの、その見極めの良さには関心してしまったな。
「それよりイストバーンは自分に降りかかる火の粉ぐらい払えよ」
「分かってるって。さすがに殺されかけたのに疑われるのは腹が立つからな」
なお、イストバーン様は王太子派閥の一部貴族から自作自演を疑われている。何でかっつーと、エリクサーを使って彼を救ったのが彼お抱えの女官であるあたしだったから。命が保証されてるから王太子の信頼を失墜させるために無謀な真似したんだろ、とか。
「しかもギゼラまで疑ってきやがって……!」
それを聞いた時は思わず大声を上げちまったし、そんな憶測を口にした奴をぶん殴りたい衝動に駆られたもんだが、あたしの代わりにイストバーン様が怒ってくれた。なもので嬉しさの方がこみ上げてくるんだから、あたしったら単純だよな。
「ふーん、珍しいじゃん。イストバーンがそんな感情剥き出しにするなんてさ」
「ヤーノシュもバルバラ嬢が誹謗中傷にさらされたら分かる」
「……へー、イストバーンにとって彼女はそれぐらいなんだ」
「そのニヤケ顔ムカつくから止めろ」
おい馬鹿共止めろ。そんな話はせめてあたしがいねえ所でやれ。
でないと、その、何だ? 恥ずかしいじゃねえか……。
んで、まず二人に酒とグラスを提供した給仕が実行犯だって疑ったんだが、彼は取り調べを受ける前に口の中に仕込んでいた毒で自殺した。奇しくもイストバーン様に仕込んだ毒と同種類だったらしく、あの時少しでも遅かったらと思うとぞっとする。
その動機を調べるべく家宅捜査や周囲への聞き込みをしたんだが、特に現在の王政に不満があるわけではなく、ラインヒルデやイストバーン様個人への恨みもなし。勤務態度や人間関係等も良好。彼は正に絵に書いたような善良な人だったらしいな。
「どう考えてもソイツを裏で操ってた人物がいただろ」
「そうは言うけどな、金銭や手紙のやり取りの跡も見つからなったぞ」
「自殺してまで真相を明かそうとしなかったんだろ。脅されてたんじゃねえの? お前がやんなかったら大切な人を殺す、みたいな感じに」
「……そういえばその給仕、妹が王宮勤めの使用人だったな」
その線から捜査を続行。給仕の様子が最近おかしくなかったか、誰か見かけない人物と接触が無かったか、等を重点的に探った。と同時に給仕が盛った毒の入手元をたどるよう動いていった。
王太子と第一王子の名は絶大で、聴取を受けた者は平民貴族問わず殆どが自分の知ることを喋った。結果、ある日を境に給仕が思い詰めるようになった、との証言に端を発し、ようやく黒幕の尻尾を掴むことに成功した。
その日給仕と接触した文官は、尋問の末に確かに家族を人質に給仕にイストバーン様方を害するよう命令を伝えた、と白状した。そんなソイツは証人保護の約束と引き換えに、とある宮廷女官に命じられた、と明かした。
「で、貴女お抱えの女官を取り調べた末に辿り着いたわけだ」
そうして王太子は近衛兵やイストバーン様達を伴って黒幕と相対したわけだな。
ただ王太子のいつものような自分が偉くて人を小馬鹿にした生意気な態度は完全に鳴りを潜めていた。
まあ、無理もない。相手が相手だったから。
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