最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん

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聖女にかかりゃ悪事も一発で露見さ

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 ところがそんな大仕事の結果なんだが、絨毯の裏側から衣装箪笥の奥まで隅々まで調べたのに収穫無しだった。保管してた手紙を残らず読み込む作業がまだ終わってないものの、徒労に終わるのは目に見えていた。

 なのに青ざめるのは王妃でほくそ笑むのは王太子。
 王太子の目論見は誰の目から見ても明らかだった。

「んじゃあ、母上が神聖帝国と内通してた手紙が見つかったってことで」
「やっぱり、証拠をでっち上げてわたくしに全ての罪を着せるつもりね……!?」
「忠臣の証言が証拠なんだからでっちあげって程でも無いだろ。イストバーンだけならともかく神聖帝国皇太子まで巻き込んだんだから、逃げられると思うなよ」
「国王陛下やわたくしの実家が許さなくてよ! 折角お前を王にしようとこれまで育ててきてやったのに……!」

 王太子は王妃を捕らえるよう近衛兵達に命ずる。王妃は喚きながらもがくけれど、その細い腕じゃあ屈強な兵士達を振り解くのは無理ってものだ。非難の声を上げる侍女達は剣を向けて黙らせるあたり、やり口が強引だな。

 王太子があたしとイストバーン様を連れてきたのは自分の手柄を誇示するためで、バルバラは自分の格好良さを見せつけたかっただろう。バルバラはその強引さにドン引きしてるしイストバーン様は不満そうに沈黙するしで逆効果だがね。

 ……胸糞が悪い。イストバーン様が殺されかけたのを差し引いても王太子の三流脚本にこのまま乗っかったままなのはあたしの誇りが許さねえ。やっぱあたしがちと朱書きしてやらなきゃ駄目っぽいな、こりゃ。

「マティルデ。残念だけど出番来ちまったぜ」
「えー。仕方がないですねー」

 あたしが指を鳴らしたのとマティルデが部屋に入ってきたのはほぼ同時だった。マティルデは部屋の中にたむろしてたあたし達や近衛兵共の間を縫うように進み、衣装棚の引き出しを指差した。

「ここですね。ほら、ギゼラさんもぼけっと見てないで手伝ってくださいよ」
「しゃーねーなー。代わりに今晩奢れよ」
「言っておきますけれどこれだって業務外の手伝い、いわば奉仕活動なんですからね」

 あたしとマティルデで左右を持ち、引き出しを抜き取ってテーブルへと運んだ。収納されていたのは王妃のものと思われる下着。近衛兵共が引っ掻き回したせいなのか、少しぐちゃぐちゃになっちまってるな。

 そんな下着群を二人して外に出していく。しまいに空っぽになった引き出しの中をじっくり見つめたマティルデは器用に底板……の上に巧妙に仕込まれていた二重底の板を剥がしたのだった。

 そして手紙が晒された。神聖帝国より送られてきたゲスな提案が書かれた証拠が、な。

「万が一探されても殿方が躊躇するような下着入れに収納しておくとは考えましたね」
「相変わらずえげつねえな、マティルデの直感って奴はさ」
「あら、もしかして破滅させられた前回でも思い出しましたか?」
「ありゃ反則だろ! じゃなかったら一生バレっこなかったんだよ」

 何のことはない、マティルデの聖女としての直感を頼りに悪意の宿った代物が無いかを探っただけの話だ。この手口で最低の屑だったあたしは非道な真似の記録を奪われ、全てを奪われ、失い、終いにはこの身を焼き尽くされたってわけだ。

 よほど隠し場所に自身があったのか、王妃は秘密が暴かれると途端に顔を白くして細かく震え始めた。歯がかちかち鳴るのがこっちまで聞こえてきてうるせえんだけど。あと両脇を近衛兵が捕まえてなかったら崩れ落ちるんじゃねえかな。

「手紙の中身は王妃と神聖帝国にいるやんごとなき方とやらとのやりとりですか」
「どっちも身内に関する愚痴って点は同じみたいだけど、何で手紙ごとに筆跡が違うんだ? 書いてる文章の癖もバラバラなんだが」
「あら、ギゼラさんにしては珍しく迂闊ですね」
「あん?」
「これらの手紙、全部代筆ですよ。それもラースロー様お抱えの、ね」
「……!」

 つまり、だ。大雑把な内容だけ伝えて複数人に書かせることで誰が差出人かを分からなくしたってわけか。随分小賢しい真似しやがるが、前回ラースローに仕事を押し付けられてたあたしとマティルデがこっちにいるのは誤算だったな。

 名声が高まるイストバーン様への不満が頂点に達しようとした頃、あのラースローに恐ろしい計画が提案された。すなわち、イストバーン様を暗殺した上でラインヒルデにその罪をなすりつけることを。
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