最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん

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母親相手でも容赦ねえな

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「毒はラースロー様が準備なさったみたいですね。彼が関与したのはそれぐらいですか」
「発案と手段の提供だけしておいて自分は手を汚さずかよ。汚え真似しやがる」

 ラースローの目論んだ筋書きは概ね前回現実になっちまった悲劇のとおりみたいだな。目の上のたんこぶだったラインヒルデを有能な隣国王子もろとも排除して神聖帝国に君臨する予定を粉砕してやって気分爽快だ。

「それにしても、こんな決定打になる危なっかしい手紙をよく残してましたね。読んだらすぐ焼いちゃえば良かったのに」
「分かってないなあマティルデも」
「む、じゃあギゼラさんには分かるんですか?」
「いざラースローに裏切られた時はコレ使って脅せるだろ」

 いわばこの裏取引の手紙は諸刃の剣だ。提案したラースローにも受諾した王妃にも致命傷を与えうる。王妃はそんな危険性を承知で神聖帝国を屈服させる材料を手元に置いていたわけだ。
 ま、つまりは王妃は欲をかいたせいで足元を掬われたのさ。

「さて王妃様、これでもわたくしじゃないハメられたんだ、とか口にしませんよね?」
「言っとくけれど言い逃れしたって無駄だからな。神聖帝国に帰ったラインヒルデ皇太子が向こう側を締め上げてるだろうし、バレるのは時間の問題じゃねえかな」

 あたしとマティルデが二人して王妃に手紙を突きつけると、彼女は拳を握りしめたうえで腕を振るわせ、次には悪魔のような形相であたし達が持っていない手紙をぶん取ると、奇声を発しながら引きちぎり始めた。

「よくもよくも……! お前達がいなければ今頃万事上手くいっていたのに!」

 はあ、結局のところ動機は察しのとおり優秀なイストバーン様にヤーノシュの王太子の座が危うくなるから、らしい。ただ彼女の口ぶりからするに、イストバーン様はあたし達が思ってた以上に元老院の貴族共から支持を集めていたらしい。はた迷惑な。

「何だ、母上も分かってなかったのかよ。王様に求められるのは外面の良さと、いかに面倒事を押し付けられる奴を囲うか、だろ? 上手く采配してりゃいいんだから、何も本人が優秀な必要はどこにも無いってわけ」
「なっ……! 国家元首がそれでいいと思っているの!?」
「やれる奴がやるのは当然だろ。国のために生きて国のために死ぬとか古いって」
「……っ!」

 適材適所に仕事を任せれば効率がいい、なんて主張は大多数の王族や貴族の常識からかけ離れてる。強いて言うなら大昔にあったってされてる共和制政治に近いか。怠惰だと呆れるべきか斬新だと関心すべきか非常に迷うな、こりゃ。

 ただ、王妃である実の母親は息子の言葉を全く理解出来ないようで、王太子を見つめる眼差しには恐怖すら宿っていた。さながら悪魔を目の当たりにしたように。
 彼女は無意識のうちに後ずさっていたのか、テーブルの足に当たってよろめいた。

「んじゃあ話は終わりだよな。いくら王妃でもやったことには責任を取らないとな」
「こ、このわたくしをどうするつもりなの……!?」
「あ? 分かりきったことを今更聞かないでくれよ。裁判を受けて罪を償うんだよ」
「離しなさい、このわたくしを誰だと――!」

 そんな王妃は近衛兵達に両腕を掴まれて引きずられていく。いくら必死に王太子に呼びかけても彼はおざなりに返事するばかりで彼女を見送りすらしない。いくら大罪を犯した輩でも実の母親に向けてなんて冷血な、と思ったもんだが……。

「あー、終わった終わった。ったく、とんだ尻拭いをさせられたよ。疲れたからしばらく休んでくからお前達は戻っていいよ」

 彼は王妃の叫びが聞こえなくなると椅子を引っ張り出してぐったりと座り込んだ。魂が抜け出るんじゃないかってぐらい深く溜め息も漏らす。そんな彼にバルバラが無言で寄り添う。彼女が肩に添えた手を彼は握った。

「ん? でもまだ王妃様の下着を出しっぱなしだから片付けたいんだが……」
「いいから行くぞギゼラ」
「え? あ、ちょっと……!」

 あたしは有無を言わさずイストバーン様に手を引かれて退室させられた。
 ちょっと握られた手が痛かったから抗議しようと頭によぎったんだが、彼が辛そうな顔をしていたものだから口に出せなかった。
 それに、閉まる扉の隙間から見えた王太子が項垂れる姿は……何とも言えなかった。
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