最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん

文字の大きさ
60 / 82

皇太子が喧嘩ふっかけてきやがった

しおりを挟む
「そう言えば、ギゼラって前回この時期はどうしてたんだっけ?」
「あ? 何だよいきなり」

 そうして再び王宮は日常を取り戻したわけで。忙しさは増したものの、第一王子執務室内は平常運転に戻っていた。ふとした拍子に雑談が飛び交うのも日常茶飯事。口は動かしても手と頭は仕事を処理する器用な真似も慣れたもんだ。

「神聖帝国には国家規模の学び舎があるんだろ」
「あー、帝国学園のことか。良い思い出無えんだよなぁ」

 神聖帝国の貴族として生を受けた子供は例外なく帝国学園に通うことが義務付けられてる。それは聖女として適正を認められた聖女候補者も例外じゃない。前回はあたしとマティルデも教会での修行の合間を縫って通ってたっけか。

 で、最低の屑は調子に乗って威張り散らして、マティルデの奴は援助を得るべく男共を篭絡してく始末。んで、クソ女っぷりに我慢出来なくなったラースローの野郎に婚約破棄されたのは卒業を間近に控えた夜会だったって記憶してる。

「もし前回を思い出さないままだったらもうじき最終学年に進学する頃だな」
「ふぅん。もう一度通って学び直したいとは思わないのか?」
「思うわけねえだろ。こう見えてあたしぁ優等生だったんだぜ。あそこで覚えられる事なんざもう無えよ」
「性格と態度は最悪でしたけど成績はダントツでしたからね」

 よく考えればその優秀さをひけらかしたのもラースローの野郎に嫌われた要因かもな。かと言ってあんな奴よりあたしの方が優れてるって考えは今も変わっちゃいねえ。こればっかりは傲慢なんかじゃなくてれっきとした事実だもんな。

 大体、今となっちゃこうして文官として業務に励んでる身だしな。今更学生に戻って将来のために勉強に勤しむとか馬鹿らしいったらありゃしない。知識を得たければ専門書を取り寄せれば済む話だろ。

「で、何でまたそんな話が出てきたんだ?」
「いや、ラインヒルデ皇女から一年間留学しないかと誘われた」
「はあ? アイツ馬鹿じゃねえの? 既に公務に携わってる他国の王子を招待するとか有り得ねえだろ」
「だよなぁ。俺も勉強なんか大嫌いだから断りたいんだが……」
「嫌なのにどうして迷うんだよ?」
「それはギゼラ宛の手紙も送ったから読めば分かるってさ」

 そう言ってイストバーン様はこっちに手紙を放り投げてきた。上手く掴めずに床に転がったソレを拾い上げると、なんと神聖帝国皇家の家紋が描かれた封蝋がされているじゃないか。心当たりはあるんだが……正直見たくねえからそのまま捨てちまおうかな?

 観念して封を切ると、案の定送り主はラインヒルデからだった。ラースローを逃したことを結構重く受け止めてるみたいで、まずその件の謝罪から文章は始まっていた。そこからはクソ真面目で堅苦しく近状報告が綴られていたんだが……、

「は?」

 ある一文に目が釘付けになった。

「ラースロー皇子を次の皇帝に推す勢力が弱体化したことでいよいよ本格的にラインヒルデ皇女の婚約者を選ぶ動きが活発になってきたらしい。有力貴族の子息が次々と名乗りを上げてるようなんだが、当の本人は内側を固めるのは政治の役目だと主張してるそうだ」

 だからか、ラインヒルデ皇太子の伴侶には他国の王族から迎え入れるのがいいんじゃないか、と囁かれ始めた、とイストバーン様は説明を続けてくれたのだが、ぶっちゃけ今のあたしの右耳から左耳に通り過ぎてくだけだった。

 とどのつまり、ラインヒルデの相手として隣国王子であるイストバーン様は最適だ、ってことだろ。何せ二人は気心知れた間柄なんだからな。だからラインヒルデはイストバーン様を自国に呼びたがってるんだ。

「いや、確かに光栄なんだけどさ、のんびりとながら王国に尽くしたいって将来設計してたのに、いきなりそう振られたって困るよな」
「……」
「あとラインヒルデ皇女に不満があるわけじゃないけど、女性として見れるかって言うとちょっと戸惑いの方が勝るような……」
「イストバーン殿下ー。ギゼラさんはそれどころじゃないみたいですよー」

 手紙にはラインヒルデがイストバーン様と共に歩んでいくのも悪くはない、むしろ好ましい、と書かれていた。そこからあたしが知らないイストバーン様との交流を自慢話みたいに伝えてくる始末。

 そして、とうとうあたしの堪忍袋の緒が切れた。
 あたしが神聖帝国に帰って来ないならイストバーン様を自分の夫とするつもりだ、との結言を目にして。

「ふ、ざけんなぁぁ!」

 我に返った時には大声を張り上げて手紙を引き裂いていた。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

婚約破棄された聖女様たちは、それぞれ自由と幸せを掴む

青の雀
ファンタジー
捨て子だったキャサリンは、孤児院に育てられたが、5歳の頃洗礼を受けた際に聖女認定されてしまう。 12歳の時、公爵家に養女に出され、王太子殿下の婚約者に治まるが、平民で孤児であったため毛嫌いされ、王太子は禁忌の聖女召喚を行ってしまう。 邪魔になったキャサリンは、偽聖女の汚名を着せられ、処刑される寸前、転移魔法と浮遊魔法を使い、逃げ出してしまう。 、

前世の記憶を持つ守護聖女は婚約破棄されました。

さざれ石みだれ
恋愛
「カテリーナ。お前との婚約を破棄する!」 王子殿下に婚約破棄を突きつけられたのは、伯爵家次女、薄幸のカテリーナ。 前世で伝説の聖女であった彼女は、王都に対する闇の軍団の攻撃を防いでいた。 侵入しようとする悪霊は、聖女の力によって浄化されているのだ。 王国にとってなくてはならない存在のカテリーナであったが、とある理由で正体を明かすことができない。 政略的に決められた結婚にも納得し、静かに守護の祈りを捧げる日々を送っていたのだ。 ところが、王子殿下は婚約破棄したその場で巷で聖女と噂される女性、シャイナを侍らせ婚約を宣言する。 カテリーナは婚約者にふさわしくなく、本物の聖女であるシャイナが正に王家の正室として適格だと口にしたのだ。

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

捨てられた聖女は穢れた大地に立つ

宵森 灯理
恋愛
かつて聖女を輩出したマルシーヌ聖公家のソフィーとギルレーヌ王家のセルジュ王子とは古くからの慣わしにより婚約していたが、突然王子から婚約者をソフィーから妹のポレットに交代したいと言われる。ソフィーの知らぬ間に、セルジュ王子とソフィーの妹のポレットは恋仲になっていたのだ。 両親も王族もポレットの方が相応しいと宣い、ソフィーは婚約者から外されてしまった。放逐された失意のソフィーはドラゴンに急襲され穢れた大地となった隣国へ救済に行くことに決める。 実際に行ってみると、苦しむ人々を前にソフィーは、己の無力さと浅はかさを痛感するのだった。それでも一人の神官として浄化による救助活動に勤しむソフィーの前に、かつての学友、ファウロスが現れた。 そして国と民を救う為、自分と契約結婚してこの国に留まって欲しいと懇願されるのだった。 ソフィーは苦しむ民の為に、その契約を受け入れ、浄化の活動を本格化させる。人々を救っていく中でファウロスに特別な感情を抱きようになっていったが、あくまで契約結婚なのでその気持ちを抑え続けていた。 そんな中で人々はソフィーを聖女、と呼ぶようになっていった。彼女の名声が高まると、急に故郷から帰ってくるように、と命令が来た。ソフィーの身柄を自国に戻し、名声を利用とする為に。ソフィーとファウロスは、それを阻止するべく動き出したのだった。

処理中です...