最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん

文字の大きさ
64 / 82

にやけちゃうのは仕方ないよなぁ

しおりを挟む
「……ふふっ」
「そうやって左手薬指眺めながら笑うの、怖いんで止めてもらえませんか?」
「いいじゃんか。減るものじゃあるまいし」
「こっちの神経がすり減るんですよ。あと業務効率も減ってますね」

 教会で神に永久の愛を誓い合って婚姻届を提出してから数日経った。
 あたしが自分の指で光り輝く結婚指輪ににやけが止まらず、マティルデが呆れ果てて苦言を呈し続けた日数でもある。

 ちなみに貴族の結婚は爵位問わず国王の許可が必要だったりする。これは勝手に家同士の結び付きが強くなって相対的に王家の威信が低下するのを防ぐ意味があるらしい。ましてやイストバーン様は王族。妾ならまだしも妃はちゃんと正式な手続きがいるわけだ。

 そんなわけで教会に提出した婚姻届は国王へと回され、王妃のやらかしのせいで既に半ば引退気味な現国王に代わって王太子が処理した。王太子が呆れまじりでイストバーン様を睨みつけながら婚姻届を返してきた。

「一応受理はしたけれどさ、あくまで仮だからな。彼女の身元保証をする家はイストバーンの方で見つけろよ」
「そこは問題無い。ギゼラは神聖帝国公爵家の生まれだ」
「はあ!? 何でそんな奴がこんな所にいるんだよ!?」
「あー、話せば長いんだが、神のお告げのせいってことで納得してくれ」

 王太子が言うには王位継承権を持つ王族の妃にもなると最低でも伯爵以上の爵位を持つ家の娘である必要があるらしい。そうやって国内の貴族間の力関係を調整のと、妃に相応しい教養を備える必要があるから、だとさ。

 そんな建前はあるものの裏技は存在する。それが王太子が口にした身元保証。要するに男爵令嬢だとかは一旦伯爵以上の家の養子になって、その家の令嬢として王家に嫁いでくるわけだ。これも有力貴族の面子を潰さないためなんだと。面倒くせえな。

「イストバーン様。悪いんだが……」
「イストバーン、でいいって言ってるだろ。もう俺達は生涯を誓った間柄。上下もへったくれも無いだろ」
「……イストバーン。あたしは実家から家出してきた身なんだけど。もう勘当されちまってるんじゃねえかな?」
「そこは問題ない。ラインヒルデの要望を受けての対処なんだ。そこは彼女に上手く仲裁してもらうよう依頼しておいた」

 仕方ねえんだが、後々のことを考えると、いつまでもあたしをしがない平民娘からの成り上がりってしとくのは都合が悪いらしい。確かにごまかさずにきちんと過去を清算した上でイストバーン様……いや、イストバーンの傍にいる方がいいだろうしな。

 しっかし実家、ねえ。最低の屑だった前回のあたしがラースローの野郎に婚約破棄された途端に切り捨ててきた薄情者共。二言目には「我が公爵家」とか言いやがる見栄っ張り共の巣窟。あたしを公爵令嬢として以外には全く見てなかった、愛なき冷血達。

「はぁ~……」

 気が滅入る、なんてもんじゃない。もう一生関わらなくてもいいって見切りをつけて脱走してきたのに、何が悲しくてまたあの家に戻らなきゃいけないんだ。名義だけにしたってイストバーンと奴らとの間に繋がりが出来るなんてたまったもんじゃねえんだが。

 そんな風にイライラしてたら、マティルデが仕事を手を止めてこっちを見つめてきていた。機嫌が悪かったあたしは「何見てんだオラ」とばかりにガン飛ばしたんだが、マティルデは怯むどころかため息を漏らしてきやがった。

「バイエルン公爵家は大罪を犯した娘のギゼラを早々に勘当して、助けようとする素振りも見せなかった。ギゼラさんの認識ではそんなところですか?」
「……分かってんなら今更口に出すまでもねえだろ。あんな所になんざこれっぽっちも未練は無いね」
「じゃあその情報は誰から聞いたんですか? 大方牢屋の見張り番とか拷問官、あとはラースロー殿下辺りからじゃないですか?」
「……っ!」

 確かにその通りだ。「お前を助けようとする奴なんざ誰もいない」的に責められた際に聞かされた情報だって記憶している。
 でも、あたしが火あぶりにされる時に家族は誰も姿を見せなかったじゃねえか。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

婚約破棄された聖女様たちは、それぞれ自由と幸せを掴む

青の雀
ファンタジー
捨て子だったキャサリンは、孤児院に育てられたが、5歳の頃洗礼を受けた際に聖女認定されてしまう。 12歳の時、公爵家に養女に出され、王太子殿下の婚約者に治まるが、平民で孤児であったため毛嫌いされ、王太子は禁忌の聖女召喚を行ってしまう。 邪魔になったキャサリンは、偽聖女の汚名を着せられ、処刑される寸前、転移魔法と浮遊魔法を使い、逃げ出してしまう。 、

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...