婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

文字の大きさ
13 / 195

ハプニング

しおりを挟む
 気持ちの上では華麗に着地。のはずが、地に着くどころか、なぜだか体が宙に浮いているような。

「はあ。よかった。間に合った」

 耳元で大きなため息とともに声がしました。
 えっ……ええっ! 何が起きたのですか?

 後ろを恐々と振り返ってみれば、男性の顔が。目が合うと安心したような表情で微笑んでる顔がありました。
 えっ。この状況は何? もしかして、抱えられているのでしょうか?

 あわっ、あわわっ……
 お姫様抱っこ状態は、さすがに恥ずかしいです。顔が見れません。私の顔、赤くなってるんじゃないかしら? 

「あの、もう、大丈夫ですから」

「君、裸足だよ」

「靴が、ありますから……あの……」

 そうです。靴がそばにあるはずですからすぐに履けば問題ないと思うのですが、一向に下ろしてもらえる気配がありません。
 えーと。どうしたらいいんでしょう。

「マロン。おいで、マロン」

 内心、焦っているところに別のところから声がしました。その声に聞き覚えがあるのか、今までおとなしくしていた子猫ちゃんが私の手の中をすり抜けて、声の主のところへ駆け込んでいきました。

 子猫ちゃんの動きを辿った先には、五、六才くらいの男の子の姿が見えました。男の子に抱っこされた子猫ちゃんは嬉しそうにほっぺたをスリスリして甘えています。この子が飼い主なのでしょう。

「もう、マロンてば、勝手に外に出たらだめだよ。心配したじゃないか」

 叱りながらも、子猫ちゃんの頭を撫でています。小さな男の子が子猫ちゃんをほおずりしている姿はなんともかわいらしいくて微笑ましい。私の心もほっこりと和みます。って、和んでいる場合ではないわ。
 お姫様抱っこされているこの状況を何とかしなくては……

「あの、そろそろ、下ろして頂けませんか? 重いでしょうし、あの……ありがとうございました」

 私はおずおずと切り出しました。きっとこれで、下ろしてくださるでしょう。

「おねえちゃん。マロンを助けてくれてありがとう」

 私のすぐそばで男の子の声がしました。

「いえ、その……は、はい⁈……」

 いきなり、ニコニコとした笑顔でお礼を言われて、他のことに気を取られていた私は、あたふたするばかりでうまく言葉が浮かんできません。

「じゃあ、帰ろうか」

 頭の上から、爽やかな男性の声が聞こえました。
 はあ、よかった。やっと、下ろしてもらえるのね。と、喜んだのもつかの間。
 私を抱えたまま歩き出しました。

「下ろしてください」

 ここは毅然とした態度をとらなくてはと思い、彼の顔を見てはっきりと口にしました。改めてしっかりと顔を見て、美しすぎて一瞬、見惚れてしまいました。
 艶を放つバーミリオンの髪、アーモンド形の菫色の瞳、通った鼻筋、弧を描く唇。そのどれもが絶妙な配置でもって形作られていている完璧ともいえる容貌。しかも、どなたかを彷彿とさせるような……

 まさか……ですよね。
 浮かび上がった答えを打ち消すように頭を振りました。最悪な結論に導かれそうで怖いです。これ以上は考えないようにしましょう。知らない方が幸せなこともあります。
  
 アーモンド形の菫色の瞳がゆっくりと細められて、まばゆいばかりの美貌が笑みを作ります。

「うん。下ろしてあげるよ。部屋に帰ったらね。さっ、行こうか」

 部屋って、部屋って、どこですか?

「会場に戻らなきゃ」

「ああ、ガーデンパーティーの招待客だったんだね」

「そうです。戻らないと友人が心配してるかもしれません」

 庭園に出てからどのくらい時間がたったのでしょう? ディアナが探しているかもしれません。
 私は必死になって何とかこの場から逃れようと言いつのります。どなたかは、はっきり知りませんけれど、解放してください。お願いします。半分涙目です。というかもう、泣きたいです。
 
「友人て、誰かな?」

 名前を言えば帰してもらえるのでしょうか。

「ディアナ・マクレーン伯爵令嬢です」

「そう。なら、問題ないね」

 えっ? 何が問題ないんですか? 

 私を離してくれる気配もなくずんずんと歩いていきます。

「放してください。会場に帰らないと、お願いです」

 何とか開放してもらおうとジタバタと暴れると

「こら、そんなに暴れたら、落っこちるよ」

「きゃあ」

 言われたそばから視界がぐらりと揺れてバランスを崩しそうになって、思わず男性にしがみついてしまいました。シトラスの香りが微かに鼻を掠めてドキリとします。

「ねえ、どこに行くの?」

 ドキドキしている私をよそに、男の子が男性の服の裾を引っ張ります。

「俺の宮に行く」

「僕も行ってもいい?」

「いいぞ。一緒に来るか?」

「うん。行く。行く」

 俺の宮って……えっ! まさかですよね。いやいや、最悪のパターンになりそうな……
 私は王妃陛下主催のガーデンパーティーに来ただけなのですよ。何やら高貴そうな男性に会う予定などなかったはずです。

「もう、帰してくださいませんか? どこの誰とも知れない者を連れていては、あなた様にご迷惑をかけるかもしれません」

 そうです。名乗っておりませんので私は不審人物扱いではないでしょうか? ということで、解放してくれませんか? 

「……」

 なんで、そこで沈黙なんですか? うっすらと笑っていますけど、しゃべってください。

 結局、それ以降男性の口は開かれることはなく、抵抗もむなしく私は連れ去られてしまいました。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。 そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。 ──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。 恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。 ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。 この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。 まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、 そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。 お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。 ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。 妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。 ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。 ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。 「だいすきって気持ちは、  きっと一番すてきなまほうなの──!」 風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。 これは、リリアナの庭で育つ、 小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています

鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。 伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。 愛のない契約、形式だけの夫婦生活。 それで十分だと、彼女は思っていた。 しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。 襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、 ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。 「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」 財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、 やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。 契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。 白い結婚の裏で繰り広げられる、 “ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...