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こんなつもりでは……Ⅰ
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レイ様は立ち上がると扉の奥へと消えました。
ディアナのほかに、王妃陛下と王太子妃殿下までご一緒とは、何があったのでしょう。
レイ様に用事があるのか、それとも……
お二人がここにいらっしゃるということはガーデンパーティーも終わったのですよね。帰りのご挨拶もできなかったことになるわ。
ガーデンパーティーの時は、薔薇のアーチの入退場口で王妃陛下が帰りのお見送りをしてくださいます。王妃陛下からお言葉を頂いて帰路に着くというのが慣例です。ですから、その慣例を破ってしまったことになります。
西の宮にいると聞きつけて私を叱りつけに来られたのかしら? それならば無作法をしたことを謝らなければ……
招待客が王妃陛下に礼に欠けたことをしてしまったのだから、許してくださるのかわからないけれどここは誠心誠意、謝罪しようと腹をくくり緊張しつつ、ドキドキしつつ、ドアが開くのを待っていました。
「フローラ?」
ほどなくしてちょっとずつ扉が開かれ、恐る恐る姿を見せたのはディアナでした。ソファに座る私を見つけると、半信半疑な様子でこわばっていた顔が見る見るうちに明るくなりました。
「よかったわ。無事で。いつの間にか会場からいなくなるのですもの。随分探したわ。ローズ様たちと捜索願いを出そうかと話していたところだったのよ」
ディアナが私を見つめ感極まったようにぎゅうと抱きしめました。
捜索願いって、そんな大事になりそうだったのね。とても心配をかけてしまって申し訳ないわ。王妃陛下と王太子妃殿下にまでご迷惑をかけてしまうなんて、とても浅はかなことをしてしまった。あの時、無理にでも下ろしてもらって会場へ帰るべきだったのよ。今頃後悔しても遅いのだけれども。
「ごめんなさい。その……いろいろあって……」
私はもごもごと言葉を濁します。なんて説明すればいいのかしら。
経緯を辿っていくと、淑女にあるまじきお転婆な行動とお姫様抱っこされて裸足のままレイ様の宮に連れてこられたという恥ずかしさしか思い出せません。
「いろいろねえ。一応レイニーからは事情は聞いたけれど」
レイ様が話したのですね。あの恥ずかしい諸々は割愛の上説明してくださっていますように。私は心の中で手を合わせました。
「あら、まあ。リチャードだったのね」
無事を確認したところで、ディアナはわたしの膝の上で寝ているリッキー様を見つけて驚いた声をあげました。
「偶然お会いしたのです。疲れたのでしょうね」
リッキー様の頭を撫でながら寝顔を眺めました。すやすやと寝息を立てながら眠る姿も天使のよう。背中に羽が生えていたとしても不思議ではないくらいかわいい。
「ぐっすり眠っているみたいね。リチャードって人見知りするタイプなのに、初対面の人相手にこんなに懐くなんてありえないわ」
「そうなの?」
リッキー様が人見知りとはまったく気づきませんでした。初めから打ち解けてくれてたような気がします。かわいがっている子猫を助けたから、マロン効果なのかしら。
「きっと、一目でフローラのこと気に入ったのね。わたしと一緒だわ」
ディアナはリッキー様のほっぺたを人差し指でツンツンとつついています。ふっくらとした頬はマシュマロみたいで柔らかそうですけど。触りたい気持ちもわかりますけど。
「リッキー様が起きちゃいますよ」
何度もつついちゃうから、リッキー様のお口がムニュムニュ動いてむずがゆそうにしています。
「リッキー様って、もしかしてリチャードのこと?」
「そうだけど、ダメだったかしら? ご本人からの要望だったのでそうお呼びしたのだけれど。レイニー王子殿下をレイ様とお呼びするのも、やっぱりダメよね。不敬に当たるわよね」
王族の方に気安く愛称で呼ぶのは私には荷が重すぎるので、できれば失礼だ不敬だと叱ってくれないかしら。そうすればすぐに止めるのに……距離は置いといた方がよいでしょうから、そんな期待も込めて聞いてみました。
「……レイ様?」
小さく呟くとディアナは瞳が零れ落ちるのではないかと思うくらい大きく目を見開いて私をまじまじと見た後、フッと不敵な笑みを浮かべました。
「あら、いいんじゃないの。本人が許可したのならそう呼んでおあげなさいな。大丈夫よ、気にしなくても。不敬だなんて誰も思わないわ。わたしだって王妃陛下はローズ様、王太子妃殿下はアンジェラだし、王子たちも呼び捨てよ、これはお互い様ね」
私の意見はあっけなく一蹴されて、ディアナからウィンクつきであっさりと了承されてしまいました。
王族の血を引き、国王陛下ご夫妻から可愛がられているディアナとはだいぶ立場が違いますけれど。
本人が良ければよいと理屈はわかりますが、それっていいのでしょうか。がっかりしたようなホッとしたような複雑な気持ちです。
「ディアナ様、どうぞ」
エルザたちがお茶を運んできました。
「ありがとう」
ディアナが向かいのソファに腰かけたと同時に、隣の部屋からレイ様が入ってきました。
王妃陛下方とのお話は終わったのかしら?
何やら不穏な空気を漂わせてつかつかと歩いてきたと思ったらディアナの横で仁王立ちして
「ローラに会ったから安心しただろう。ディアナもう帰っていいぞ。ついでにあの二人も連れていってくれ」
レイ様は迷惑そうに言い放つと開け放たれた扉を見やりました。
つられるように見た私の瞳に、隣の部屋からこちらを覗く王妃陛下と王太子妃殿下のお二人の姿が映っていました。
ディアナのほかに、王妃陛下と王太子妃殿下までご一緒とは、何があったのでしょう。
レイ様に用事があるのか、それとも……
お二人がここにいらっしゃるということはガーデンパーティーも終わったのですよね。帰りのご挨拶もできなかったことになるわ。
ガーデンパーティーの時は、薔薇のアーチの入退場口で王妃陛下が帰りのお見送りをしてくださいます。王妃陛下からお言葉を頂いて帰路に着くというのが慣例です。ですから、その慣例を破ってしまったことになります。
西の宮にいると聞きつけて私を叱りつけに来られたのかしら? それならば無作法をしたことを謝らなければ……
招待客が王妃陛下に礼に欠けたことをしてしまったのだから、許してくださるのかわからないけれどここは誠心誠意、謝罪しようと腹をくくり緊張しつつ、ドキドキしつつ、ドアが開くのを待っていました。
「フローラ?」
ほどなくしてちょっとずつ扉が開かれ、恐る恐る姿を見せたのはディアナでした。ソファに座る私を見つけると、半信半疑な様子でこわばっていた顔が見る見るうちに明るくなりました。
「よかったわ。無事で。いつの間にか会場からいなくなるのですもの。随分探したわ。ローズ様たちと捜索願いを出そうかと話していたところだったのよ」
ディアナが私を見つめ感極まったようにぎゅうと抱きしめました。
捜索願いって、そんな大事になりそうだったのね。とても心配をかけてしまって申し訳ないわ。王妃陛下と王太子妃殿下にまでご迷惑をかけてしまうなんて、とても浅はかなことをしてしまった。あの時、無理にでも下ろしてもらって会場へ帰るべきだったのよ。今頃後悔しても遅いのだけれども。
「ごめんなさい。その……いろいろあって……」
私はもごもごと言葉を濁します。なんて説明すればいいのかしら。
経緯を辿っていくと、淑女にあるまじきお転婆な行動とお姫様抱っこされて裸足のままレイ様の宮に連れてこられたという恥ずかしさしか思い出せません。
「いろいろねえ。一応レイニーからは事情は聞いたけれど」
レイ様が話したのですね。あの恥ずかしい諸々は割愛の上説明してくださっていますように。私は心の中で手を合わせました。
「あら、まあ。リチャードだったのね」
無事を確認したところで、ディアナはわたしの膝の上で寝ているリッキー様を見つけて驚いた声をあげました。
「偶然お会いしたのです。疲れたのでしょうね」
リッキー様の頭を撫でながら寝顔を眺めました。すやすやと寝息を立てながら眠る姿も天使のよう。背中に羽が生えていたとしても不思議ではないくらいかわいい。
「ぐっすり眠っているみたいね。リチャードって人見知りするタイプなのに、初対面の人相手にこんなに懐くなんてありえないわ」
「そうなの?」
リッキー様が人見知りとはまったく気づきませんでした。初めから打ち解けてくれてたような気がします。かわいがっている子猫を助けたから、マロン効果なのかしら。
「きっと、一目でフローラのこと気に入ったのね。わたしと一緒だわ」
ディアナはリッキー様のほっぺたを人差し指でツンツンとつついています。ふっくらとした頬はマシュマロみたいで柔らかそうですけど。触りたい気持ちもわかりますけど。
「リッキー様が起きちゃいますよ」
何度もつついちゃうから、リッキー様のお口がムニュムニュ動いてむずがゆそうにしています。
「リッキー様って、もしかしてリチャードのこと?」
「そうだけど、ダメだったかしら? ご本人からの要望だったのでそうお呼びしたのだけれど。レイニー王子殿下をレイ様とお呼びするのも、やっぱりダメよね。不敬に当たるわよね」
王族の方に気安く愛称で呼ぶのは私には荷が重すぎるので、できれば失礼だ不敬だと叱ってくれないかしら。そうすればすぐに止めるのに……距離は置いといた方がよいでしょうから、そんな期待も込めて聞いてみました。
「……レイ様?」
小さく呟くとディアナは瞳が零れ落ちるのではないかと思うくらい大きく目を見開いて私をまじまじと見た後、フッと不敵な笑みを浮かべました。
「あら、いいんじゃないの。本人が許可したのならそう呼んでおあげなさいな。大丈夫よ、気にしなくても。不敬だなんて誰も思わないわ。わたしだって王妃陛下はローズ様、王太子妃殿下はアンジェラだし、王子たちも呼び捨てよ、これはお互い様ね」
私の意見はあっけなく一蹴されて、ディアナからウィンクつきであっさりと了承されてしまいました。
王族の血を引き、国王陛下ご夫妻から可愛がられているディアナとはだいぶ立場が違いますけれど。
本人が良ければよいと理屈はわかりますが、それっていいのでしょうか。がっかりしたようなホッとしたような複雑な気持ちです。
「ディアナ様、どうぞ」
エルザたちがお茶を運んできました。
「ありがとう」
ディアナが向かいのソファに腰かけたと同時に、隣の部屋からレイ様が入ってきました。
王妃陛下方とのお話は終わったのかしら?
何やら不穏な空気を漂わせてつかつかと歩いてきたと思ったらディアナの横で仁王立ちして
「ローラに会ったから安心しただろう。ディアナもう帰っていいぞ。ついでにあの二人も連れていってくれ」
レイ様は迷惑そうに言い放つと開け放たれた扉を見やりました。
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