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西の宮からの景色Ⅰ
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「ここから見える景色もきれいなんですね」
翌日はレイ様と朝食をすませて、二階の北側のバルコニーへと出たところです。泊ったのは本宮のディアナの部屋の隣でした。
エルザが世話係としてついてきてくれたので、一緒に部屋の中を確認していると、ディアナが顔を出しました。
まさか、彼女も王宮に来ているとは思わずびっくりしたのですが、ローズ様に用事があったそうで泊りで訪れたとか。
「あの建物は何ですか?」
遠くには城壁が見えて常緑樹に囲まれた中に建物が見えます。王宮なのでしょうか。
三の宮までは本宮からも見えるのでわかりやすいのですが、北側にも同じような建物があるとは思いませんでした。
藤が絡んだ塀の先には、球形の屋根に先のとがった塔らしきものも見えます。全体的に薄いピンクでおとぎ話に出てきそうなかわいらしいデザインです。
ちょっと好奇心に負けて聞いてみました。
「あれは王宮だよ。北の宮と呼ばれている」
「どなたか住んでいるんですか?」
ローズ様のお子様は三人。それぞれの宮に住んでいらっしゃいますし、四人なんて聞いたことはありません。
それとも王族の方がいらっしゃるとか?
「いや、今は空いてるよ。以前は曾祖母の住まいだったらしいけどね」
曾祖母といえば、マクレーン伯爵家に降嫁なさっていましたね。
それにしてもこの王宮だけ随分と趣が違うわ。
東の宮も西の宮も外観は四角い箱の形でシンプルなのですよね。南の宮はレンガ造りで壁には蔦が這っていて古めかしい佇まいなので、作られた年代が違うのかもしれないわね。
「もしかして王女殿下の王宮なのですか?」
「そう。うちは男系で女の子があまり生まれないんだ。で、念願の王女が誕生した時に、当時の国王が特別に作らせたらしい。俺は中には入ったことはないけれど、その時々の王女の好みで内装を変えているらしいよ」
「そうなのですね。とても愛されていたのですね」
「そうみたいだね。父上も俺たちも男の兄弟ばかりだしね。女の子は生まれても一人といった具合に少ないから、宝物扱いで曾祖母も相当溺愛されて育ったって聞いているんだ」
苦笑交じりで話すレイ様の様子を見ていると、いろんなエピソードがありそうな感じがするわ。
「では、この宮は王女殿下が生まれないと使われないということですか?」
「たぶん、そうじゃないかな。もしも王女が生まれたら上を下への大騒ぎになると思うよ。みんなで目に入れても痛くないほど猫可愛がりするのが想像できる」
「ふふふっ」
確かに想像できるかも。レイ様もリッキー様をとてもかわいがっていますものね。
「あと、別名があって桜の宮とも言われている」
「桜の宮ですか?」
桜とは何でしょう? 初めて聞く名前だわ。
「桜という樹木があるんだ。それに因んで名づけられている」
「桜?」
聞きなれない名前に首をかしげているとレイ様が説明してくれました。
「南側に桜の木が五本ほどあって、春先に淡紅色の花を咲かせるんだ。きれいだよ。咲き始めも満開も散り際までもね」
「淡紅色の花……もしかして、王宮の壁の色みたいな?」
「ああ。そうそう、あんな色だよ」
「まあ、そうなのですね」
王宮を見つめながら色を想像してみました。どんな花なのでしょうか? 花びらの形は? 一重かしら、八重かしら。興味が出てきました。どんなふうに咲くのでしょう。見てみたいです。
「これも、来年でないと見れないけど、招待しようか?」
「あっ。は……」
寸でのところで踏みとどまったわ。危ない、危ない。また、引っかかるところでした。ここで調子に乗って返事をすると今までと同じになってしまうわ。距離を置いた方がよいと思うのに、反対にもっと縮まってしまうわ。
「どうしたの? 見たくないの? 桜。とってもきれいだよ。この世のものとは思えないくらいにね。昼も夜もどちらも見ごたえがあるよ」
きれい。この世のものとは思えないって……そんなに?
そんなことを言われたら揺れるじゃないですか。我慢しているのに。
私はレイ様を口を引き結んで上目遣いで見つめました。
翌日はレイ様と朝食をすませて、二階の北側のバルコニーへと出たところです。泊ったのは本宮のディアナの部屋の隣でした。
エルザが世話係としてついてきてくれたので、一緒に部屋の中を確認していると、ディアナが顔を出しました。
まさか、彼女も王宮に来ているとは思わずびっくりしたのですが、ローズ様に用事があったそうで泊りで訪れたとか。
「あの建物は何ですか?」
遠くには城壁が見えて常緑樹に囲まれた中に建物が見えます。王宮なのでしょうか。
三の宮までは本宮からも見えるのでわかりやすいのですが、北側にも同じような建物があるとは思いませんでした。
藤が絡んだ塀の先には、球形の屋根に先のとがった塔らしきものも見えます。全体的に薄いピンクでおとぎ話に出てきそうなかわいらしいデザインです。
ちょっと好奇心に負けて聞いてみました。
「あれは王宮だよ。北の宮と呼ばれている」
「どなたか住んでいるんですか?」
ローズ様のお子様は三人。それぞれの宮に住んでいらっしゃいますし、四人なんて聞いたことはありません。
それとも王族の方がいらっしゃるとか?
「いや、今は空いてるよ。以前は曾祖母の住まいだったらしいけどね」
曾祖母といえば、マクレーン伯爵家に降嫁なさっていましたね。
それにしてもこの王宮だけ随分と趣が違うわ。
東の宮も西の宮も外観は四角い箱の形でシンプルなのですよね。南の宮はレンガ造りで壁には蔦が這っていて古めかしい佇まいなので、作られた年代が違うのかもしれないわね。
「もしかして王女殿下の王宮なのですか?」
「そう。うちは男系で女の子があまり生まれないんだ。で、念願の王女が誕生した時に、当時の国王が特別に作らせたらしい。俺は中には入ったことはないけれど、その時々の王女の好みで内装を変えているらしいよ」
「そうなのですね。とても愛されていたのですね」
「そうみたいだね。父上も俺たちも男の兄弟ばかりだしね。女の子は生まれても一人といった具合に少ないから、宝物扱いで曾祖母も相当溺愛されて育ったって聞いているんだ」
苦笑交じりで話すレイ様の様子を見ていると、いろんなエピソードがありそうな感じがするわ。
「では、この宮は王女殿下が生まれないと使われないということですか?」
「たぶん、そうじゃないかな。もしも王女が生まれたら上を下への大騒ぎになると思うよ。みんなで目に入れても痛くないほど猫可愛がりするのが想像できる」
「ふふふっ」
確かに想像できるかも。レイ様もリッキー様をとてもかわいがっていますものね。
「あと、別名があって桜の宮とも言われている」
「桜の宮ですか?」
桜とは何でしょう? 初めて聞く名前だわ。
「桜という樹木があるんだ。それに因んで名づけられている」
「桜?」
聞きなれない名前に首をかしげているとレイ様が説明してくれました。
「南側に桜の木が五本ほどあって、春先に淡紅色の花を咲かせるんだ。きれいだよ。咲き始めも満開も散り際までもね」
「淡紅色の花……もしかして、王宮の壁の色みたいな?」
「ああ。そうそう、あんな色だよ」
「まあ、そうなのですね」
王宮を見つめながら色を想像してみました。どんな花なのでしょうか? 花びらの形は? 一重かしら、八重かしら。興味が出てきました。どんなふうに咲くのでしょう。見てみたいです。
「これも、来年でないと見れないけど、招待しようか?」
「あっ。は……」
寸でのところで踏みとどまったわ。危ない、危ない。また、引っかかるところでした。ここで調子に乗って返事をすると今までと同じになってしまうわ。距離を置いた方がよいと思うのに、反対にもっと縮まってしまうわ。
「どうしたの? 見たくないの? 桜。とってもきれいだよ。この世のものとは思えないくらいにね。昼も夜もどちらも見ごたえがあるよ」
きれい。この世のものとは思えないって……そんなに?
そんなことを言われたら揺れるじゃないですか。我慢しているのに。
私はレイ様を口を引き結んで上目遣いで見つめました。
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