婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

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もう少し、このままでⅢ

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「ローラ?」

 名前を呼ばれてハッと我に返りました。

 レイ様は魔法でも使っているのではないかしら? 時々時間が止まってしまいますもの。
 それよりも、レイ様はなんと言ったかしら? 確か、つきあうかって聞かれたのよね?

「はい。よろしいですけれど、今度は何におつきあいをすればいいのでしょう?」

 これまでもいろいろとご一緒しているので、ここで一つくらい増えたとしてもそれほど支障はないでしょう。無茶なこともおっしゃらないでしょうし。けれど、少しだけ覚悟してレイ様の言葉を待ちました。

 レイ様は大きく目を見開いたかと思ったら、天を仰いで息を吐きました。

 空は澄み渡っていてとてもきれいな青空が広がっていました。たなびくような細い白い雲が流れて行きます。なんて、晴れやかで清々しい景色でしょう。

 空を眺めていたのはどれくらいでしょうか。
 なんとも言えない沈黙の後、レイ様が口を開きました。

「うん。まさかの予想通りの答えをありがとう」

 レイ様の笑顔が引きつっているように見えるのは気のせいかしら?
 予想通りということは、間違いではなかったってことですよね。

「ローラが言うつきあうって、どういうことかな?」

「それは、明日の早朝に花を見に行ったり、先日の蛍とか、お茶や食事をご一緒するとか、あとは手紙の文通とか……あっ、桜も」

 これからの予定も含めて、思い出す限り話しました。そういえば、庭園の散歩もありましたし、これはまだですが、うちの邸の庭園の見学もありました。こうやって改めて考えてみると、次から次へと浮かんできますね。

「そうだねー。けっこうあるね」

 レイ様も苦笑交じりで頷いてくれました。口調が少し棒でしたけど。
 そうですよね。私もビックリしました。

 離れた後ろの方で、レイ様の真意をくみ取れない私とレイ様との会話のちぐはぐさがおかしかったのか、護衛たちが笑いをかみ殺しているとはつゆ知らず、素直に驚いていました。

 レイ様は手を離すと先に歩き出して私の方へと振り向きました。

「ローラ。おいで」

 両手を広げて私の名前を優し気に呼びました。
 突然の行動に足が止まります。
 レイ様は何をしたいのでしょう? 謎な行動に目がテンになっているともう一度名前を呼ばれました。

「ローラ。おいで」

 思いっきり広げられた両手に飛び込んでおいでと言わんばかり。

「早く、おいで」

 子供を諭すような口調の中に、有無を言わせぬような強い主張を感じてしまうのはなぜでしょう?
 それなのに、レイ様の声が甘美なメロディーとなって誘われているように感じるのはなぜでしょう?
 きっと、拒否することは許されないのでしょう。

 私はレイ様の元へと近づきました。
 笑顔はとろけるように甘いのに、表情にそぐわぬ、瞳の奥に感じる獲物を狙う獰猛な獣のような鋭い視線。ぞくりと体が震えました。

 捕まってしまう。

 危険。

 そう感じてはいても、体は吸い寄せられるようにレイ様の腕の中へと飛び込んでいました。

 温かい。
 何度も抱きしめられた体はレイ様の体温を覚えています。真綿に包まれているような安心する温かさです。

「体はこんなに従順なのに、どうして心は頑ななんだろうな」

 えっ?
 体? 従順? 頑な?

 呆れを含んだため息に訳の分からない言葉が聞こえてきました。顔を上げようとした私を制するようにいっそう強く抱きしめられました。

 レイ様は何を考えているのでしょうか。

 腕の中に閉じ込められて身動きできなくなった私はしばし考えていましたが、本人ではないのですから答えが出るはずもありません。
「あの……レイ様?」
  
「うん?」

「私は何か変なことを言ったのでしょうか?」

 どこかしっくりこなくて気になって聞いてみました。

「ううん。変なことは言ってないよ。お互いにちょっとだけ気持ちに齟齬があるだけかな。大筋ではあながち間違いでもないから、気にしなくていいよ」

 気持ちに齟齬? 間違いではない?

 気にしなくてもいいよと言われても、含みを持たせた言葉に、どこかしら嚙み合わないものを感じてモヤモヤしてしまいます。 

「レイ様、はっきりと言って頂いた方がすっきりとするのですけど」

 自分には理解できない何かがあるかもしれません。明確な答えが欲しくてレイ様を見上げました。

 答えを求めるようにジッと見つめていると、不意に瞼に何かが触れました。

 柔らかい何かが……
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