婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

文字の大きさ
85 / 195
第二部

ディアナside②

しおりを挟む
「リリアさんは平民育ちだから、彼らが幼少期から育てたわけではないし、兄夫婦が亡くなって引き取ったのでしょう? 年齢的にも分別のつく年頃ですもの。世間的には彼女の行動は褒められたものではないけれど、だからと言って、彼らに責任を押しつけようとは思わないわ。謝罪も誠意のあるものだったし、何も言うことはないわ」

 シャロン様は心底満足しているよう。

「念願が叶ってよかったですわ」

「そうね」
 
 わたしたちは顔を見合わせて笑い合った。
 婚約解消が成立した後、胸がすく思いでシャロン様とお祝いをしたけれど、またここで祝杯を上げたい気分だわ。

「せっかくの縁ですものね。チェント男爵家とは、これからもよいお付き合いができればと思っているのよ。それよりもテンネル家には、それ相応の報いをとは思っているけれど。フローラを大事にするどころか、虚仮にするような扱い。そちらの方が許せない。腹が立つわ」
 
 シャロン様はそのことを思い出したのか、怒りで拳を握りしめている。
 そうよねぇ。あれは本当に酷かったわ。わたしだって、怒りで報告書を握りつぶしてしまったもの。ぐしゃぐしゃになった報告書は使い物にならず、また新しく作ってもらう羽目になったもの。そのくらい、酷かった。

 あの時のことを思い出して、沸々と湧いてくる感情を落ち着けるために、わたしは紅茶を口にした。オレンジを取り出してナイフで切って食べる。酸味が程よく緩和されて甘みが加わり美味しい。
 胃の中に食べ物がおさまるとだいぶ落ち着いてきたわ。
 それにしてもこのフルーツティー。これは女性に受けるのではないかしら。
 紅茶を堪能しつつ今後の展開にも頭を巡らせる。

 テンネル家のことは色々と考えてはいるけれど。
 ともかく、シャロン様たちが気に入って、これからチェント家と懇意にしていくとなると、テンネル家とチェント家が婚約関係にあったとしても、何か変化があるかもしれないわね。楽しみだわ。

 それにしても、度胸があるわ。
 普通は婚約破棄させた元凶の家がその相手に商談なんて持ち込まないでしょうに。シャロン様たちが最初から好意的だったからこそ、成立したことよね。じゃなきゃ、速攻つぶされているわ。

「そう、そう。スイーツとカフェの宣伝も兼ねてパーティーを開こうと思っているの。それで、招待状を送ろうと思っているのよ。ディアナちゃんも招待するから、ぜひ来てちょうだいね」

 平常心を取り戻したシャロン様がにこやかに話しかける。

「それはもちろん。喜んで参加させていただきますわ」

 思いつきで始まったというお店も現実になったようでよかったわ。
 フローラの開発した商品も売り出されるということだから、今回の件は長期的に見ても、テンネル家はかなりの損失になるのではないかしらね。

 シャロン様が紅茶を注ぎ足してくれた。
 白い湯気が立ち上るカップを眺めてわたしは一人笑みを深めた。


 二人で紅茶を頂きながら和やかな雰囲気を取り戻した頃。 

「奥様、お嬢様がお帰りになられました」

 人払いされた部屋にノックの後に入ってきたのは、執事のバート。

「フローラが帰ってきたの?」

 もうそんな時間? 
 シャロン様の声に合わせるようにわたしは窓に目を向けた。
 外は明るいわよね。青空が見えるわ。
 レイニーと夕食を取って帰ってくると聞いていたのに。あのレイニーがこんなに早くフローラを開放するとも思えないのだけど……
 
 想定外の出来事に、わたしたちはお互いに顔を見合わせた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。 そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。 ──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。 恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。 ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。 この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。 まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、 そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。 お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。 ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。 妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。 ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。 ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。 「だいすきって気持ちは、  きっと一番すてきなまほうなの──!」 風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。 これは、リリアナの庭で育つ、 小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています

鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。 伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。 愛のない契約、形式だけの夫婦生活。 それで十分だと、彼女は思っていた。 しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。 襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、 ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。 「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」 財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、 やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。 契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。 白い結婚の裏で繰り広げられる、 “ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...