婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

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第二部

ディアナside⑨

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「それにしても、シュミット公爵家も落ちたものね。娘が平気で嘘をまき散らすんですもの。とてもがっかりしたわ」

 アンジェラが扇子の奥で大袈裟に嘆息した。
 雲行きが怪しくなったと思ったのだろう。ビビアン様の顔がにわかに曇る。

「ガーデンパーティーで知り合ったとかレイニーと恋仲だとか、西の宮で逢瀬を重ねていただとか、結婚の約束もしていたのですってね。それとレイニーから指輪をプレゼントされたのよね。どういうものだったのかしら。その指輪見てみたいわね」

 メイドが告白した内容は、何も知らなければ信じてしまいそうになるくらいよくできていた。それもそのはずよね。それには真実も含まれているから。本人の体験ではなくてもね。
 指輪ね。メイドが見せてもらったと言っていたものね。その時のビビアン様はとても幸せそうだったとか……茶番もいいところだけれど、メイドは真剣だったわ。

 ビビアン様の顔は赤くなったり青くなったり忙しい。

「王妃陛下がガーデンパーティーを開いたのは貴族達との交流を図る意味合いの他に、レイニーとフローラちゃんを引き合わせるという目的もあったのよ」

「えっ、そんな……」

 アンジェラの言葉に目を剥き驚愕するビビアン様。最初からあなたは眼中になかったのよ。

「ああ、それとあなたがやりたがっていたリチャードの語学教師の件だけれど、それもレイニーとフローラちゃんを会わせるためだったの。貴族令嬢とはいえ、理由なく王城に頻繁には呼べないわ。だから特別な理由を作ったのよ」

 ショックを受けたのかガクッと膝を落としたビビアン様。
 フローラに執拗に絡んでいたのは、レイニーとの接点が欲しかったから。ユージーンの祝賀会で目撃した二人の関係に焦ったのよね。傍から見ていても、全身がむずがゆくなるくらい、イチャイチャラブラブしていたものね。そこで諦めればよかったのに、妙なライバル意識を持つから、邪心が芽生えるのよ。

「だから、あなたが語学教師を務める可能性はなかったの。西の宮で会っていたのはあなたではなくフローラちゃんよ。ガーデンパーティーで偶然に出会ったのもフローラちゃんであなたではないわ。それは認めるわね?」

 筒抜けになっている自分の所業に何も言えずこくこくと頷くだけ。それに嘘だと自白しているのだから当然と言えば当然ね。
 それにしてもフローラ嬢からフローラちゃんになっているわ。沸々と湧き上がる怒りを抑えているアンジェラの後ろに燃え盛る青い炎が見えるよう。

「素直でよろしいわ」

 再び立ち上がる気力はないのか膝をついたままのビビアン様を見下ろすと、目を細めるアンジェラ。その瞳には侮蔑の色が見えた。

「それとね、メイドの事情聴取の時にレイニーもいたのよ。彼の驚きようったら、そばで見ていて気の毒になるくらいだったわ。フローラちゃんとの交際があなたにすり替わっているのですもの。それを臆面もなく堂々と語るメイド。これが誉れ高きシュミット公爵令嬢の所業とは本当に呆れたわ」

 次から次へと飛び出してくるビビアン様の醜態。レイニーが聴聞していると知って、すっかり血の気をなくした彼女。己の愚かさが身に染みたかしら。

 レイニーは本当に可哀想だったわ。まさか、あんな話を聞かされるなんて思わないものね。わたしもだったけれど。ビビアン様がフローラに嫉妬していたのは知っていた。だからって、あんな大嘘をつくなんて思いもしないじゃない?

 メイドの告白に一つ一つ否定をし真実を証言をしていかねばならなかったレイニーと嘘と真実を聞かされたシュミット公爵もある意味被害者ね。

 公爵にとって自慢の娘だったのに。レイニーとの結婚を陛下にそれとなく打診しているのは知っていたけれども。脈はないことに気づいた公爵は、陛下推薦のロジアム侯爵家との結婚に飛びついたのよね。条件もかなり良かったから。それを壊してしまったのはビビアン様。幸せは一瞬にして消え去っていく。愚かなふるまいのせいで。

「王族相手によく嘘が語れたものね。不敬罪、侮辱罪、虚偽罪。他にもあるかしらね」

「そんなつもりは、ありませんでしたわ。だって、あれは夢物語であって、真実ではありません」

「そうね。あなたはそのつもりだったのよね? あくまでも夢の世界の物語。わかっているわ」

 血の気が戻ったのかビビアン様の頬に赤みが差した。アンジェラの言葉に一喜一憂する姿にまともに思考が働いていないことが分かる。その場その場で取り繕うのが精一杯。
 
「内々で語らい楽しむ分には害はないかもしれないわ。でもね、それが動機で犯罪を犯したら罪になるのよ。そのくらいわかるでしょう?」
 
「そんな……」

 小さい子供を諭す様な穏やかな語り口。アンジェラって優しいわね。胸中は荒れ狂っているかもしれないけれど。
 少しは自分の犯した罪に気づいたかしら?
 
 これから下される処罰にビビアン様はどんな反応をするのかしらね。
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