33 / 91
二羽は木陰で羽を休める
33
しおりを挟む
――――思えば、あの日から狂い始めていたのかもしれない。
あのときの自分はあまりの衝撃に打ちひしがれていた。
あんなにも凄惨な場所に彼女一人向かわせ、自分はただ待っていただなんて。
彼女はあんなにも頑張っていてくれたのに、なんて愚かなのだろう。
けれどあれ程の劣勢を覆せたのだ。きっと彼女一人抜けても大丈夫だろう。
だからもう、彼女を傍に置いても許されるよね?
いつかあの恐ろしいところに行かなければならないのならば。せめてそれまでは、好いた人と過ごしても良いよね?
…………そんな馬鹿げたことを思っていた時期もあった。
なんと幼稚で、浅はかな思考。根拠の無い安心感と、若さゆえの焦燥感。
そんなもので動かされてはいけない存在だというのに。
穴があったら入りたい、とはまさにこのこと。過去に戻れるならば今すぐあの若造を殴りに行きたい。
ああ、でも。
そもそもが間違っていたのだろうか?
その問いに答える者は、もうどこにもいない。
「支度は整ったか?…………ンンッ、それでは。これより報告会を始める!」
「はっ!」
その号令に男たちの野太い声が応じる。と同時に、洗練された衣擦れの音たちが揃って動いた。
この日は大勢の上級官吏と一部の軍人が宮殿の最上階に集まっていた。
整然と居並んだ彼ら全員は一様に拱手をして頭を垂れている。
それ故広間は常よりも窮屈で重苦しい空間になり、厳かな雰囲気が漲っている。そしてその場にいる全員が緊張感を漂わせていた。
「まずは此度の戦果から述べていきます――――」
先程開始を告げた官吏が、木簡片手に広間の隅まで声を届け始めた。
一堂に会した人々は皆、彼の話に真摯な態度で耳を傾けている。
そんな中、一人違ったことを考えている者がいた。
(あーあ。早く私の番にならないかなぁ……)
始まって早々、とある少年は上の空で落ち着きがなかった。
彼も形だけは拱手の礼を構えている。が、その顔には緊張感のきの字もない。
それもそのはず。今日は少年が待ちに待った日だったのだから――――
遡ること数日。
修軍は剛と鳳の合同軍から奇跡の逆転勝利をもぎ取って凱旋した。
華々しい帰還を果たした兵たち。その体は疲労困憊で足元も覚束ない有様である。
されど彼らの顔にそんな素振りは一寸もない。
あの死線を乗り超えて都城に戻れたのだ。疲れなど忘れたように肩を叩いて喜びを分かち合った。
家族がいる者は嬉々として家に帰り、兵舎に住んでいる独身連中はささやかな宴会を開いた。
一方で彼らは、夫を失った妻や、父を亡くした子らを訪ねた。過酷な戦場でも最後まで諦めなかった彼らの雄姿を伝え、愛する人を亡くした彼女らの傷に寄り添い慰めた。
そんな風にして雑兵たちは、勝ち取った命を寿ぎ、露と消えた命に祈りを捧げ、戦が終わったのをしみじみと噛み締めていた。
翻って軍上層部。
彼らの様相は“忙殺”の一言に尽きた。
軍幹部の者は戦で起きたことを王宮へつぶさに報告せねばならず、事後処理に奔走した。
今回は先と比べて圧倒的に死傷者が多く、生存者の確認だけでも一日掛かりであった。その上、兵士一人ひとりの功績を精査して、"士"に推薦出来る者を決めるのも並行しなければならなかった。
一応、この業務に明確な締切は定められていなかった。が、早ければ早い程に越したことはない、というのが宮殿側の態度である。
必然的に軍の上官たちは草臥れた体に鞭打って、馬馬車のように働かざるを得なかった。
そうしてまとめ上げた木簡の束を王宮に提出する。
王宮はその報告書を元に正誤の確認や決定事項をすり合わせ、最終的に定まった情報をこの報告会で共有する。
つまり、この場で初めて。士に取り立てられる庶人が判明するのである。
……とはいったものの、宮殿に貴族以外が立ち入ることは本来あり得ない。
庶人である少年がこの場に呼び出されている時点で、何が起こるかなど自明の理であった。
「次は……士の位を与える庶人を読み上げる。呼ばれた者は一歩前に出よ!」
官吏がその言葉を発した途端、少年の瞳が爛々と輝く。
「――!――!」
連続で挙げられていく名前に合わせて、彼の横で一列に並んでいる兵士仲間たちが次々に進み出る。
「最後に……む?」
突然、官吏の言葉が止まる。
小さな異変にその場にいる全員が身じろぐ。
「おい、これは誤謬ではないのか?」
と、読み上げていた官吏が隣に控えていた別の官吏に囁く。
「え?少し良いですか?」
と、小さな声で答えた彼は問題の木簡を覗き見て“ああ”と納得する。
「これで間違いないですよ。たしかこの者は田舎の出身で……その村では逆の名前にするのが風習だとかなんとか」
「ふむ?そのような村は初耳だが……これで合っているならば仕方ない」
“ンンッ”と咳払いをすると、最後の名前を呼ぶ。
「では最後に……美琳!」
ざわ、と広間に動揺が走った。
戦の功労者が呼ばれたはずなのに、何故ここで女の名が。
名づけの事情など知るべくもない官吏たちは、誰か何か知らないのか、と隣同士目配せし合う。が、どの目も答えを持ち合わせておらず、ざわめきは増していった。
その話題の中心である人物が一歩足を踏み出し、そして深く長揖する。
袖を合わせて顔の前に掲げ、腰を直角に曲げた彼の顔は見えない。
頭を深く垂れたことで、白く細い首筋が覗き見える。結髪からはほつれた黒髪が艶めかしく流れ落ちた。
兵士にしては小綺麗な上に小柄である。その頼りない体つきからはとても屈強な兵士とは思えない。
しかし最後に読み上げられたということは、此度の戦で最大の戦績を上げたことを意味している。
官吏たちは正体不明の兵士を見定めんと食い入るように盗み見た。
「前に出た者たちよ。拝謁することを許可する。面を上げよ!」
会を進行していた官吏が合図を送る。と、兵らがそっと長揖の構えを解いた。
庶人から貴族に成り上がれただけある。偉丈夫がずらりと立ち並んでいた。
しかし件の兵士はまるで少女のような美貌であった。
いよいよ場が騒然となる。
「なんと、あのような者が紛れ込んでおるとは」「もしや彼の者が噂の“少年”か?」「しかしアレでは……本当に“少女”なのではあるまいか?」
官吏たちは好き勝手に騒ぎ始める。
「静粛に!静粛にせい!」
気づいた進行役が大声を上げた。
だが一度広がった波紋が簡単に収まるわけがない。
男の制止など意味を成さず揺らぎ続ける広間であった。が。
「……!」
あることを契機にぴた、とすべての音が静まり返った。
沈黙させたのはたった一つの行為であった。
それを行った人物は部屋の最奥にある大きな椅子に鎮座している。
その椅子は三段重ねの台座に載せられている。そのため外からの日差しは座している者の顔まで届かず、影となっている。
顔の見えない黄色の着物の男はただ無言で片手を挙げているだけだった。だが全員の視線を集めるのには十分であったようだ。
“少年”を見ている者などもはや誰もいなかった。
「続けよ」
一言、落ち着いた男の声がする。
「は、はっ!」
進行役の官吏が慌てて昇格する兵らに目線を戻す。
「御前まで歩み出よ」
数人の兵たちが動きをずらさないように注意を払いながら、するすると広間の奥に進んでいく。
わざわざ動いて止まって動く。
そんな七面倒臭いことを彼らは黙々と行う。これは宮殿で行う辞儀のしきたりであり、守れぬ者は粗野な無礼者として処断されるのだ。
「止まれ」
官吏が合図を送ると、彼らは再び長揖する。
椅子に腰掛けた男がゆっくりと口を開く。
「此度の働き。大儀であった」
「恐悦至極でございます」
兵らは揃って同じ言葉を発する。
「うむ」
影に身を包んでいる男は肘掛けで頬杖をつくと、もう片方の手の指をつと動かす。
「そこの者。近う寄れ」
そう言って男が指し示したのは“美琳”であった。が、椅子近くに控えていた官吏が慌てて止めた。
「成りませぬ。士に上がったとはいえ、まだ王の御傍には……」
「聞こえなかったのか?」
男は美琳に問いかけた。それでいて言外に官吏を牽制する響きがあった。
「ッ!……そこの。仰っている通りにしろ」
傍仕えの官吏が美琳に顎をしゃくって許可を下す。
掲げた袖の隙間から成り行きを見守っていた少年は、低頭の姿勢を崩すことなく慎重に歩み出る。
「お主が敵を引きつけたことも勝利の要因であったと聞き及んでいる」
ぴく、とその言葉に反応した者がいた。
「あれ程の……」
と、不意に男の言葉が止まる。
影に隠れていても男の顔がわずかに引き攣ったのが分かった。されどそれは一瞬の内に掻き消えた。
「あれ程の激戦を駆けていた様はこちらからでも感じ取れた。褒めて遣わす。よって、お主に何か褒美を取らせようと思ってな」
がば、と大きな音を立てて少年が顔をあげ、けれどすぐさま頭を元に戻す。
よく見ると少年の着物の袖は戦慄いている。
「……なんでも良いぞ。好きに申せ」
男の言葉は柔く張り詰めていた。
「わ、私の欲しいものは……」
変声前特有の幼げで男女の区別のつかない少年の声が答える。
その声も、男の声と同じくかすかに緊張を孕んでいた。
ごく、と少年は生唾を飲み込む音が聞こえた。
「あなたが、欲しいです」
あのときの自分はあまりの衝撃に打ちひしがれていた。
あんなにも凄惨な場所に彼女一人向かわせ、自分はただ待っていただなんて。
彼女はあんなにも頑張っていてくれたのに、なんて愚かなのだろう。
けれどあれ程の劣勢を覆せたのだ。きっと彼女一人抜けても大丈夫だろう。
だからもう、彼女を傍に置いても許されるよね?
いつかあの恐ろしいところに行かなければならないのならば。せめてそれまでは、好いた人と過ごしても良いよね?
…………そんな馬鹿げたことを思っていた時期もあった。
なんと幼稚で、浅はかな思考。根拠の無い安心感と、若さゆえの焦燥感。
そんなもので動かされてはいけない存在だというのに。
穴があったら入りたい、とはまさにこのこと。過去に戻れるならば今すぐあの若造を殴りに行きたい。
ああ、でも。
そもそもが間違っていたのだろうか?
その問いに答える者は、もうどこにもいない。
「支度は整ったか?…………ンンッ、それでは。これより報告会を始める!」
「はっ!」
その号令に男たちの野太い声が応じる。と同時に、洗練された衣擦れの音たちが揃って動いた。
この日は大勢の上級官吏と一部の軍人が宮殿の最上階に集まっていた。
整然と居並んだ彼ら全員は一様に拱手をして頭を垂れている。
それ故広間は常よりも窮屈で重苦しい空間になり、厳かな雰囲気が漲っている。そしてその場にいる全員が緊張感を漂わせていた。
「まずは此度の戦果から述べていきます――――」
先程開始を告げた官吏が、木簡片手に広間の隅まで声を届け始めた。
一堂に会した人々は皆、彼の話に真摯な態度で耳を傾けている。
そんな中、一人違ったことを考えている者がいた。
(あーあ。早く私の番にならないかなぁ……)
始まって早々、とある少年は上の空で落ち着きがなかった。
彼も形だけは拱手の礼を構えている。が、その顔には緊張感のきの字もない。
それもそのはず。今日は少年が待ちに待った日だったのだから――――
遡ること数日。
修軍は剛と鳳の合同軍から奇跡の逆転勝利をもぎ取って凱旋した。
華々しい帰還を果たした兵たち。その体は疲労困憊で足元も覚束ない有様である。
されど彼らの顔にそんな素振りは一寸もない。
あの死線を乗り超えて都城に戻れたのだ。疲れなど忘れたように肩を叩いて喜びを分かち合った。
家族がいる者は嬉々として家に帰り、兵舎に住んでいる独身連中はささやかな宴会を開いた。
一方で彼らは、夫を失った妻や、父を亡くした子らを訪ねた。過酷な戦場でも最後まで諦めなかった彼らの雄姿を伝え、愛する人を亡くした彼女らの傷に寄り添い慰めた。
そんな風にして雑兵たちは、勝ち取った命を寿ぎ、露と消えた命に祈りを捧げ、戦が終わったのをしみじみと噛み締めていた。
翻って軍上層部。
彼らの様相は“忙殺”の一言に尽きた。
軍幹部の者は戦で起きたことを王宮へつぶさに報告せねばならず、事後処理に奔走した。
今回は先と比べて圧倒的に死傷者が多く、生存者の確認だけでも一日掛かりであった。その上、兵士一人ひとりの功績を精査して、"士"に推薦出来る者を決めるのも並行しなければならなかった。
一応、この業務に明確な締切は定められていなかった。が、早ければ早い程に越したことはない、というのが宮殿側の態度である。
必然的に軍の上官たちは草臥れた体に鞭打って、馬馬車のように働かざるを得なかった。
そうしてまとめ上げた木簡の束を王宮に提出する。
王宮はその報告書を元に正誤の確認や決定事項をすり合わせ、最終的に定まった情報をこの報告会で共有する。
つまり、この場で初めて。士に取り立てられる庶人が判明するのである。
……とはいったものの、宮殿に貴族以外が立ち入ることは本来あり得ない。
庶人である少年がこの場に呼び出されている時点で、何が起こるかなど自明の理であった。
「次は……士の位を与える庶人を読み上げる。呼ばれた者は一歩前に出よ!」
官吏がその言葉を発した途端、少年の瞳が爛々と輝く。
「――!――!」
連続で挙げられていく名前に合わせて、彼の横で一列に並んでいる兵士仲間たちが次々に進み出る。
「最後に……む?」
突然、官吏の言葉が止まる。
小さな異変にその場にいる全員が身じろぐ。
「おい、これは誤謬ではないのか?」
と、読み上げていた官吏が隣に控えていた別の官吏に囁く。
「え?少し良いですか?」
と、小さな声で答えた彼は問題の木簡を覗き見て“ああ”と納得する。
「これで間違いないですよ。たしかこの者は田舎の出身で……その村では逆の名前にするのが風習だとかなんとか」
「ふむ?そのような村は初耳だが……これで合っているならば仕方ない」
“ンンッ”と咳払いをすると、最後の名前を呼ぶ。
「では最後に……美琳!」
ざわ、と広間に動揺が走った。
戦の功労者が呼ばれたはずなのに、何故ここで女の名が。
名づけの事情など知るべくもない官吏たちは、誰か何か知らないのか、と隣同士目配せし合う。が、どの目も答えを持ち合わせておらず、ざわめきは増していった。
その話題の中心である人物が一歩足を踏み出し、そして深く長揖する。
袖を合わせて顔の前に掲げ、腰を直角に曲げた彼の顔は見えない。
頭を深く垂れたことで、白く細い首筋が覗き見える。結髪からはほつれた黒髪が艶めかしく流れ落ちた。
兵士にしては小綺麗な上に小柄である。その頼りない体つきからはとても屈強な兵士とは思えない。
しかし最後に読み上げられたということは、此度の戦で最大の戦績を上げたことを意味している。
官吏たちは正体不明の兵士を見定めんと食い入るように盗み見た。
「前に出た者たちよ。拝謁することを許可する。面を上げよ!」
会を進行していた官吏が合図を送る。と、兵らがそっと長揖の構えを解いた。
庶人から貴族に成り上がれただけある。偉丈夫がずらりと立ち並んでいた。
しかし件の兵士はまるで少女のような美貌であった。
いよいよ場が騒然となる。
「なんと、あのような者が紛れ込んでおるとは」「もしや彼の者が噂の“少年”か?」「しかしアレでは……本当に“少女”なのではあるまいか?」
官吏たちは好き勝手に騒ぎ始める。
「静粛に!静粛にせい!」
気づいた進行役が大声を上げた。
だが一度広がった波紋が簡単に収まるわけがない。
男の制止など意味を成さず揺らぎ続ける広間であった。が。
「……!」
あることを契機にぴた、とすべての音が静まり返った。
沈黙させたのはたった一つの行為であった。
それを行った人物は部屋の最奥にある大きな椅子に鎮座している。
その椅子は三段重ねの台座に載せられている。そのため外からの日差しは座している者の顔まで届かず、影となっている。
顔の見えない黄色の着物の男はただ無言で片手を挙げているだけだった。だが全員の視線を集めるのには十分であったようだ。
“少年”を見ている者などもはや誰もいなかった。
「続けよ」
一言、落ち着いた男の声がする。
「は、はっ!」
進行役の官吏が慌てて昇格する兵らに目線を戻す。
「御前まで歩み出よ」
数人の兵たちが動きをずらさないように注意を払いながら、するすると広間の奥に進んでいく。
わざわざ動いて止まって動く。
そんな七面倒臭いことを彼らは黙々と行う。これは宮殿で行う辞儀のしきたりであり、守れぬ者は粗野な無礼者として処断されるのだ。
「止まれ」
官吏が合図を送ると、彼らは再び長揖する。
椅子に腰掛けた男がゆっくりと口を開く。
「此度の働き。大儀であった」
「恐悦至極でございます」
兵らは揃って同じ言葉を発する。
「うむ」
影に身を包んでいる男は肘掛けで頬杖をつくと、もう片方の手の指をつと動かす。
「そこの者。近う寄れ」
そう言って男が指し示したのは“美琳”であった。が、椅子近くに控えていた官吏が慌てて止めた。
「成りませぬ。士に上がったとはいえ、まだ王の御傍には……」
「聞こえなかったのか?」
男は美琳に問いかけた。それでいて言外に官吏を牽制する響きがあった。
「ッ!……そこの。仰っている通りにしろ」
傍仕えの官吏が美琳に顎をしゃくって許可を下す。
掲げた袖の隙間から成り行きを見守っていた少年は、低頭の姿勢を崩すことなく慎重に歩み出る。
「お主が敵を引きつけたことも勝利の要因であったと聞き及んでいる」
ぴく、とその言葉に反応した者がいた。
「あれ程の……」
と、不意に男の言葉が止まる。
影に隠れていても男の顔がわずかに引き攣ったのが分かった。されどそれは一瞬の内に掻き消えた。
「あれ程の激戦を駆けていた様はこちらからでも感じ取れた。褒めて遣わす。よって、お主に何か褒美を取らせようと思ってな」
がば、と大きな音を立てて少年が顔をあげ、けれどすぐさま頭を元に戻す。
よく見ると少年の着物の袖は戦慄いている。
「……なんでも良いぞ。好きに申せ」
男の言葉は柔く張り詰めていた。
「わ、私の欲しいものは……」
変声前特有の幼げで男女の区別のつかない少年の声が答える。
その声も、男の声と同じくかすかに緊張を孕んでいた。
ごく、と少年は生唾を飲み込む音が聞こえた。
「あなたが、欲しいです」
0
あなたにおすすめの小説
Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―
kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。
しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。
帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。
帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
直違の紋に誓って
篠川翠
歴史・時代
かつて、二本松には藩のために戦った少年たちがいた。
故郷を守らんと十四で戦いに臨み、生き延びた少年は、長じて何を学んだのか。
二本松少年隊最後の生き残りである武谷剛介。彼が子孫に残された話を元に、二本松少年隊の実像に迫ります。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる