永遠の伴侶(改定前)

白藤桜空

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刀折れ矢尽きる

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 永祥ヨンシャンが死んでからも戦は終わらなかった。
 ガン美琳メイリンが前線に出張り続けていたことで戦線を保ち、一方でシュウ文生ウェンシェン自ら指揮を執って剛を攻めた。
 戦況は膠着状態が続き、先の見えない戦いに兵士たちは摩耗していった。兵士たちの心には鬱憤が溜まり、怒りのけ口を探し始めるようになる。
 永祥を失った剛軍では、その矛先が美琳に向かい始めていった。

 一日の戦が終わった夜。松明の明かりの下、泥だらけの剛兵二人が胡坐を掻いて座っている。
 その内の一人が、隈の濃い目で隣の兵を見つつ小さな声で訊ねる。
「なあおい。お前さ、最近の美琳殿についてどう思う?」
 突然の問いに彼は困る。
「どう……って、凄い人だな、としか」
「それは分かってるよ」
「じゃあ、綺麗な人?」
「いやそうじゃなくて……」
 男は大きなため息をくと、彼の肩に手を回して顔を寄せる。
「永祥様がお亡くなりになってからあの人が指揮してるけど……なんで俺らはあの人に従ってるんだ?」
「え? だって強いから」
「でもよ、元々は修出身って話じゃねえか」
「そうらしいけど、それがなんだ?」
「いやさ、今の戦が終わらないのって美琳殿の仕業じゃねえのか、って思ってよ」
「ええ⁉ そうなのか⁈」
 男の素っ頓狂な声が剛陣営に響く。その声に反応して、まだ起きていた兵士たちが一斉に振り向く。
 肩を組んでいる男は、慌てて声を上げた男の首を絞め上げる。
「ば、馬鹿! そんなでかい声で言う奴があるか!」
 そう言って男は腕に力を込め、首を絞められている男は首元の腕をバシバシと叩きながら〝ごめん〟を連呼する。
 それを余所に男は周りを見回しながらへらへらと作り笑いを浮かべる。すると、周囲の兵たちは彼らがただふざけ合っていたと思い、興味を無くすのであった。
 そこに来てやっと男は首の拘束を解くと、小声で叱り飛ばす。
「美琳殿の耳に入ったらどうするんだよ! こんなの聞かれたら打ち首になるかもしれないじゃないか!」
 やっと解放された男は、うっすらと赤くなっている喉をさすりながら聞く。
「ゲホッ、そ、そうなのか?」
「ちょっと考えりゃ分かるだろうが。お前の脳味噌には何が詰まってるんだ?」
「? 脳味噌」
「~~!」
 不思議そうにしながら答えた男の頭を、もう一人がはたく。叩かれた男は今度は頭を掻きながら問う。
「でもよ、美琳殿が戦を続けてどんな得があるんだ? もし俺たちを苦しめるためとかだったら、さっさと負けた方が早くないか?」
「うぐ……た、確かに、そうなんだがよぉ」
 その言葉に男はぐうの音も出なくなる。もう一人は頭から手を離すと、誇らしげに鼻を膨らます。
「そんな心配するなって。きっとフェンのときみたいに打ち勝ってくれるさ。俺たち雑兵は言われた通りのことをしてりゃいいんだよ」
 あっけらかんと言ってのけた男。その姿に男は口をへの字にさせると、重たそうに腰を上げる。
「……お前に話した俺が馬鹿だったよ。俺はもう寝る」
 と言うと、スタスタと歩き始める。
「あ、待ってくれよぉ。俺ら一緒の天幕じゃないか」
 置いて行かれた男はあたふたとその後を追いかけるのであった。
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