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第4話 バスルームクライシス!
しおりを挟む僕らが渡米した当初は、パーティ三昧な日々だった。日本から来た新参者を歓迎してのことだけど、アメリカ人のパーティー好きは病気だね。
でもお陰で佐山の英語力は飛躍的に向上した。やっぱり耳のいい奴は無敵だな。僕はマネージャー兼通訳としてここにいるんだけど、契約の難しい話以外なら僕は必要ないくらいだよ。
「どう? 随分慣れたかな」
何度目かのウェルカムパーティー。ビール瓶を持ってマイケルが声をかけてくれた。
彼は僕らの送迎を含め、身の回りのことを見てくれてる。まだ若いアシスタントディレクターなんだけど、すごく気が利くし頭がいい。
茶色の髪に緑の瞳。体格的には佐山と同じくらいで典型的アメリカ人、フレンドリーなナイスガイだよ。
「うん、お陰様で。あ、今度運転の練習したいから付き合ってよ」
「ボクは構わないけど、リンとドライブなんてサヤマ怒んないかな」
「僕から言っておくから大丈夫だよ。あいつを乗せて練習しても仕方ないから」
国際免許は取得してきたけど、まだここで運転したことはない。たかが左ハンドルで右側通行なだけなんだけど、2、3度は練習したいんだよ。大事な佐山を乗せるわけだしね。
「倫、これうまいぞーっ」
大事な佐山が既に出来上がって、オードブルを手にやってきた。僕らはその辺のソファーに座って美味しい料理を堪能する。
ステージでは即席のバンドが自分たちが好きな曲を演奏している。さっきまではプロっぽいバンドが披露してたんだけど、飛び入りOKだ。
「サヤマ、来いよっ」
誰かが佐山を呼んでいる。ここのメンバーはみなプロ並みの腕前だ。でも、言っておくけど佐山はプロ中のプロなんだからな。
「佐山、魅せてやれよ。おまえの実力を」
「そうだな。倫がそう言うなら……」
なんて僕のせいにしてるけど、実はやりたくて仕方なかったんだろう。嬉しそうに走って行ってしまった。
佐山をスカウトしたロバート監督はあいつのギターと曲に惚れこんでオファーしてくれたんだけど、こっちの連中にあいつのことを深く知る者はいない。ここらで凄腕を見せつけるのも悪くないだろう。
有名な曲が演奏され、佐山のギターソロが始まった。さっきまでざわついていた部屋がしんとする。みんなが息を呑んであいつのギターに聞き入っているのがわかった。
――――やっぱり佐山は最高だな……カッコいい。
僕はいつものように心臓を鷲掴みされ、ふわふわと浮遊する。あいつの演奏が終わると同時に駆け寄りたかったけど、他の連中がそうさせてくれなかった。あっという間に耳の肥えたスタッフたちに囲まれてしまった。
なんだか人いきれにのぼせて、僕はバスルームに向かった。パーティー会場もホテルとかじゃなくて、主催者の家なんだよ。全くどうなってんだろうね、ここの住人の懐具合は。
「ねえ、君の相方。凄いね」
バスルームで手を洗っていたら誰かが入ってきた。スタッフじゃない気がするな。縦も横も大きい人で、広いバスルームも狭く感じた。
「ありがとう。自慢の相方なんで」
「ふうん。なるほどね」
僕の隣に立つと、鏡に向かって髪を整えだした。少し赤みのある茶髪。Tシャツからは筋肉がはみ出るほどだ。ちょっと怖い。
「君はあのギタリストのマネージャーさん?」
「あ、はい。そうです」
「オレは演奏頼まれたバンドのメンバーなんだ。カルロって呼んでくれ」
カルロはでかい右手を差し出した。バンドのメンバー……さっきステージで演奏してた人か。
「リンです。よろしくお願いします」
僕は紙タオルで丁寧に拭いた右手を差し出された右に当てる。すると思いのほか強く握られた。
「いた……わあっ!」
力任せに奴は僕を引き寄せ、反対の手で腕を握りつぶす勢いで掴んできた。
「なにするっ!」
「騒ぐなよ。あんた、あいつのコレだろ?」
自分の体を密着させ、僕を壁に追い詰めた。身長差から見降ろされるのは仕方ないとしても、絶対見下している。
さっきまでの親し気な態度が豹変し、下卑た顔で酒臭い息を僕の額に浴びせてきた。
「目ざわりなんだよ。ちょっと小手先が器用だからってさ」
僕の顎をぐいぐい掴み締め上げてくる。
「やめろ……おまえなんかが佐山に敵うわけない」
「黙れ。あんた、自分の立場わかってんのか? ま、いいか。いい思いさせてやるから、大人しくしてな」
野獣のような男は強引に僕の顎を上に向かせた。迫る鼻息。僕は左手で奴の顎を抑えるが腕力では勝てそうにない。
膨れ上がった奴の股間のイチモツが下腹に当たる。万事休すだよっ!
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