14 / 102
第12話 庭師のショーン
しおりを挟む僕との何を見せびらかすつもりだったのか。佐山はあっさり前言を覆し、僕に上がれと言う。
「あいつにあんたを見せるのは危険だ。もうここはいいから上で仕事しててくれ」
「わかったよ。佐山達が仕事に集中できるなら、南極にでもいくよ」
僕は呆れて踵を返す。
『ええっ! なんだよ、ドケチ野郎! リンの顔見せろよっ、減るもんじゃなし!』
「うるせえ、確実に減るわ!」
いや、減らんだろ。普通に。僕は振り向かずにドアを閉めた。ジェフもアホに付き合ってないで仕事して欲しい。絶対面白がってる。
こんなふうにやり合うと、絶対その夜、燃え上がっちゃうんだよな。もしかしてそれを見越してやり合ってんじゃないだろうな? それなら、まあ、いいか(なんちゃって)。
僕としては、いい仕事してくれればそれでいいんだけどね。音楽もあっちも。あはは。
広い庭の手入れをするのはとても僕一人じゃできない。週に1度、プロが来てくれる。放置して見かけを悪くするのはルール違反なんだよ。高級住宅地あるある。
今日はその日だったのか、庭師さんが来てた。雨もいつの間にか止んで、僕の好きな青空が見えている。
「ご苦労様。今日は家にいるんで、珈琲でもどうですか?」
「ありがとうございますっ。じゃあ、お言葉に甘えて」
まだ若い庭師さんだ。しかも日系だな。もしかしたら日本語話せるかも。ショートの黒髪で日に焼けてるけど整った顔立ち。この国だと未成年に間違えられそうだな(そういう僕もたまに疑われる)。
キッチンにやってきた彼は、僕が出したスリッパに履き替えた。僕らは土足生活に慣れなくて、家の中は土足厳禁なんだ。
「あ、やっぱり日本からですよね」
「日本語大丈夫なの? えっと」
いきなりの日本語。ここで日本語話すのは佐山とだけだから、なんだか新鮮だ。
「あんまり得意じゃないですけど。母が日本語話します。あ、ショーンって呼んでください」
僕らが日系であるのは名前からわかっていたようだが、今まで顔を合わすことがなく、日本から来たかは知らなかったと言う。
お母さんのふるさとが九州で何度か里帰りをしたことがあると彼。でも、音楽にはあまり興味がないそうで、残念ながら佐山の名前は知らなかった。
「でも、ギタリストってカッコいい。憧れます」
「ありがとう。でも、変態だよ」
「え? あはは」
お父さんと同じ庭師の道を進んだショーン。実は州立大学を出たインテリだ。一時会社勤めもしたらしいけれど、自分の頭と手と自然で造る今の仕事が好きだと笑った。
クリエイティブな点では音を司る佐山と同じだな。短い間だったけれど、楽しい時間を過ごせた。
「腹減ったあ。あれ? 誰か来てたのか?」
地下から佐山が上がってきた。時間を見ればもう昼過ぎだ。テーブルに置いたままのお菓子を掴んで口に放り込んだ。
集中して作業出来たようだな。顔に充足感が溢れてるよ。
「ああ、庭師さんがさ、日系の人で話し込んでた」
僕は昼ご飯用のサンドイッチを佐山の前に出した。
「うお、美味そう。へえ、そうなんだ」
豪快にかぶりつく。こういうところも好きなんだよな。
「ジェフとのセッションはもう終わったのか?」
「ああ、続きは明日だ。ま、リモートでも十分なんだけど、他の連中の意見も聞きたいしな」
僕がジェフの名前を口にするだけでムッとした表情を見せる。でも口角が微妙に上がってるから上手くいったんだろうな。
「別に無理して不機嫌にしなくていいぞ。僕は……おまえしか見えないから」
「え……それは、そうか。へへっ……。でも油断は禁物だ。あいつは油断ならん」
照れ隠しなのか、緩めた唇を無理に窄めてる。僕は佐山の傍に椅子を動かし、コーラを飲むあいつの頬にキスをした。
「な、なんだ?」
「なにも。キスしたくなっただけだよ」
おまえがあんまり可愛くて、愛しくなったんだよ。
「おかわり……」
あいつが僕の顎をくいっと持ち上げる。優しいキスが降ってきた。互いの唇で食み合うと、あいつの舌が割り込んできた。コーラ味が僕の舌に伝わってくる。
「ヤバい……おかわりが止まらない……」
吐息交じりであいつが囁く。困った奴だな。おまえの低くて甘い声が耳をくすぐるから、僕はいくらでもおかわりをさせてしまうんだ……。
1
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
俺だけ愛してよ!!!!!
ひな
BL
長内 春馬(24)
村上 大輔(23)
俺と春馬は付き合っている。
春馬は社内の人気者であり、俺の憧れだ。
幼馴染という関係だったが、ひょんなことから俺と春馬は付き合いだした。
春馬のことが好きすぎて、いつもヘラって春馬に迷惑をかけてしまう。
嫉妬でおかしくなりそう。
春馬のことが大好き。
離れないで欲しい。
そんな想いが膨らんで、俺は春馬を嫉妬させてみようとした。
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる