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第14話 粉もん屋開店中
しおりを挟む朝から業者の人がやってきて、次々とお料理やお酒を並べていく。
「お好み焼きや焼きそばは家でもよくやってるんです」
「助かるよ。僕だけじゃ心許なくて」
庭に一畳くらいの鉄板焼きを置いて、粉もんを振る舞う。今日は庭師のショーンに声をかけて手伝ってもらってるんだ。
定番のバーベキューはマイケルにお願いしてる。みんな慣れてるから勝手に食べるだろう。テーブルに置かれた料理もおいしそうだ。
「倫、みんな来たぞー」
ウロウロしてる間に、お客様がやってきた。こんなこと日本ではありえないシチュエーションだから、緊張しちゃうよ。佐山は即席のステージで演奏する予定。それは楽しみにしてるんだ。
3月に入ると、俄然天気のいい日が多くなってきた。広い庭を今まであまり使わなかったけれど、今日はみんなが思い思いの食事をとりながら歓談してる。僕らが振る舞った粉もんは大好評だ。
「オレにも焼かせてっ」
「あ、ジェフ! お客様は食べてればいいんだよ」
佐山は不満げだったけれど、ジェフを呼ばないわけにはいかない。物凄く早くからやって来て、僕の周りをウロウロしてる。
佐山が演奏やお客様の対応で手を離せないのをいいことに、困った人だよ。
「いいじゃん、こちらの日本のお子様も休憩したいだろう」
「え? ボクは大丈夫ですよっ。それに子供じゃないです」
「ショーンはれっきとした社会人だよ」
「おっ? そうか。それは失礼」
でもジェフの言う通り、朝からショーンはずっと立ちっぱなしだ。
「ショーン、少し休憩してていいよ。まだ料理もお酒もあるし、楽しんできて。スタッフにも日本好きの人がいるから、相手してくれると助かるし」
「そう……? じゃあ、お言葉に甘えて。佐山さんの演奏も聞きたいし」
嬉しそうに破顔して、ショーンはリビングに走って行った。
「やった!」
「喜んでるところ悪いけど、もう僕一人で大丈夫だか……」
「さあ、焼くぞっ。この二つのデカいスプーンみたいなのどう使うんだ?」
聞いちゃいない。こういうところ、佐山に似てるよ。ヘラを二つ持ってやる気満々だ。
「そう持つんじゃないよ。こう……って、おいっ」
持ち方が逆手になっていたので直そうとすると、お約束とばかりに手を握ってきた。
「いいじゃないか。教えてくれよ?」
「手を握らなくても教えられるから。ほら、焦げないようにこうするんだよ」
さっと手を離し、僕もヘラを持って焼きそばをひっくり返すようにかき混ぜる。この手つきは素人では難しかろう(僕も素人だけど)。
「ほおほお、なるほど」
楽しくなってしまったのか、ジェフは懸命に焼きそばを焼きだした。
「これ、美味いよな。オレ好きになったよ。リンと同じくらい」
僕は焼きそばと同レベルなのかよ。でもいいや。大人しく焼いてるならそれで。
「おいっ。おまえ何してんだ、そこでっ」
あ、しまった、忘れてた。演奏が途切れたと思ったら、佐山が血相変えて向かってきた。こっちはわかりやすく妬いてる。
「佐山、大丈夫だから。焼きそば焼くのが珍しいんだよ。大人しくやらせておけばいい」
「ええ!? あんた、これはこいつの作戦だよ」
「何が作戦だよ。全く嫉妬深いねえ。ほれ、オレの焼いた焼きそば食べてみろよ。美味いぞ?」
「な、こいつ……」
「佐山、ジェフもお客様なんだから、ほら、腹減ってんだろ?」
僕はジェフから皿を受け取り、佐山に食べさせる。
「ほら、あーん」
「むむっ……」
僕が差し出した箸に、パクりと食いついた。
「どうだ?」
「まあ……美味い……もっと食べさせてくれ。あーん」
全く恥ずかしくもなくよくやるよ。ジェフに見せびらかそうって魂胆なんだろうな。
僕は仕方なくもう一度食べさせる。ちらりと横目でジェフを見ると、明らかにムッとしてる。
「感じ悪い奴だなっ。リン、おまえにはオレが食べさせてやるよ。ほらっ、あーん」
「ええっ! 無理無理っ」
おいおい。いくら何でもヘラから直接食べられないよ。
「てっめえっ、ふざけんな! 俺が食ってやるよ。よこせ!」
佐山はジェフの腕を掴み、焼きそばをその口に放り込んだ。
「あ、アチッ! あちぃ!」
「何やってんだよっ、ほら水っ」
慌てて水を飲み干す佐山。ジェフはもちろん大笑いだ。全く何やってんだか。ホントに馬鹿だな、二人とも。
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