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第31話 いきなりステージ
しおりを挟む週末の夜、僕らは佐山ご所望のライブハウスに出掛けた。本日の演目は地元では名の知れたロックバンドらしくチケットもキャンセルが出てようやく取れた。
「ここでは映画祭もあるらしいな。僕らの映画もどっかのコンペに出すのかな?」
まだ前座のバンドが演奏するなか、軽く食事を取った。席はテーブル席だったんでちょうどいい。ちょっとステージからは遠いけど、熱烈なファンってわけじゃないから十分だ。
でもなんかチラチラと僕らを見てる人がいる。日本人が珍しいわけでもないだろうに。
「さあ? アカデミー賞狙いなんじゃないのか?」
「ええ? まあ、それもそうか」
問題作と言うより、完全なエンタメ映画だからな。映画祭向けではないか。
にしても、アカデミー狙いってのは正直凄いよ。佐山も音楽賞なんてのにノミネートされると嬉しいな。
「お、始まったぞ。前行くか」
「ああ」
本日のメインバンドが登場だ。テーブル席の人もスタンディングフロアに行くことができる。当然後ろの方だけど。それでも、ロックを座って聞くなんて行儀のいいことはしたくない。
エロチックなギターソロから始まり、観客のテンションが一段も二段も上昇した。
満席のライブハウスは人と人の体が密着する距離感だ。佐山がまだサポートメンバーだったころを思い出す。こんなふうに密集状態からあいつを見上げてた。
――――あ、もうまたかよ。
隣で僕の腰を抱いていたはずのあいつ、上手に体を背後に移して後ろから僕を抱く格好になってる。
それだけならまだ人混みから守ってくれてる体だけど、Tシャツの下から手を入れてきた。そのうち、デニムの中にも侵入してきそうだ。
「おい、こらやめろよ」
「え? だってちょっと退屈」
そりゃ、この程度のバンドじゃ仕方ないけど……。佐山は僕の首筋にキスを這わす。馬鹿……変な声出ちゃうだろうが。
「満員電車じゃないんだから」
あいつの腕を取って剥がそうとする。それをさせじとあいつがムキになってデニムの中に手を入れてくる。
興奮する観客たちの狭間でいったい何の攻防だろうか。あいつの息が荒くなるのが恐ろしい。
「だから、よせってっ」
右手をぐいと上にあげたその時、何の前触れもなく目の前が眩しさで目がくらんだ。スポットライトを当てられたんだ。やばい、痴漢と間違えられた?
僕は慌てて佐山の手を離し、キョロキョロと見回す。なんでだ? みんながこっち見てるけど。
「おい、どうなってんだ?」
頭の上から佐山が問いかけてくる。こっちが聞きたいよ。
「サヤマ!! ステージへ是非っ」
さっきまでノリノリでギターを弾いてたロックミュージシャンが佐山の名を呼んだ。一斉に拍手と歓声、指笛が鳴らされる。すぐ近くにいた男性が声を掛けてきた。
「オレもウィチューブで聴いて注目してたんだっ。すげえ、本人に会えるなんてよう!」
そうか、食事中、なんか視線を感じると思ってたのは気のせいじゃなかったんだ。どうやらバンドのメンバーが佐山のファン? で、あいつがいるのに気付いたらしい。
ウィチューブの功績がこんなところで発揮されるとは。ユーザーが増えてたのはわかってたけど。
しかし、それでステージに上げてなんかやってもらおうってことか? おいおい、一応佐山もプロだよ? でも、こういうの絶対こいつは断らないよな。
「どうしよ、倫。一曲くらいいいか?」
お、こいつにもプロ意識があったみたいだ。
「サワリくらいなら。レッチリなら彼らもコピーしてるんじゃない?」
さすがに佐山の曲は弾けないだろう。それにここにいるお客さんの大半は佐山のことを知らないんだ。
「あ、それいいな。じゃあ、あんたも来てくれ」
僕らは盛り上がる観客たちをかき分け、ステージへと向かった。
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