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第87話 黒い塊
しおりを挟むエリクがナイフで僕に襲い掛かって来た。火かき棒でそれを受け止めるけど、無理がある。
勢いあまって倒されたところに、ナイフがっ!
「ひええっ!」
思わず目を瞑り、首を捩ると間一髪にナイフが逸れ床に刺さった。
「何しやがるっ!」
「カルロ!?」
「ひやー!」
鈍い音がしたと思ったら、カルロがエリクの後頭部に瓶を投げたようだ。だが、頭が固いのか無事だ。
でも、カルロが助けてくれた。よし、2対1ならなんとかなる。カルロを追いかけるエリクを今度は僕が一発お見舞い。
いつの間にか火かき棒がどっかにいってしまったので、蹴りを入れた。
「おまえ、そのへなちょこキックでオレが何かなるとでも思ってんのかっ。ふざけんな!」
カルロと違ってびくともしない。こっちの脛の方がビリビリ言ってるよっ。
「ああ、もう。やっぱりおまえの味方なんかするんじゃなかった」
「カルロ、何言ってんだよ。協力しないとっ」
今度はカルロが投げた瓶を手に取り、身構える。だが、世の中そんなに甘くない。
「よぐも、こんなかってえ棒で殴りやがったんなっ」
「全く、まだ頭クラクラする」
さっきまでおねんねしてたはずの二人が立ち上がった。訛りやろうは火かき棒まで持ってる。
「ヤバい!」
床に刺さったままのナイフを僕は抜いて、カルロに渡す。二人で背中合わせになって身を守った。
「なんでこうなるんだよ……」
「うるさいなっ。死にたくなかったら頑張れ」
にじり寄ってくる3人組。万事休すだけど、僕は絶対にあきらめない。佐山のところに帰るんだ。
「瓶はな、こうやって使うんだよっ」
エリクが空瓶をテーブルにぶつけて叩き割った。尖ったガラスがナイフよりはるかに凶暴な凶器に見える。
「やれっ!」
エリクの号令と共に、3人が一斉に向かってきた。
ガラスの先端が僕の顔を目掛けて迫る。咄嗟に腕でそれを防ごうとした。瞬間、物凄い風圧が僕の全身を覆って吹き飛ばされそうになった。
――――え。何?
「りーんっ!」
――――黒い塊……!?
「こんのくそ野郎っ!」
「うげええっ!」
エリクのデカい体が僕の目の前で椅子に倒れ込んだ。何が起こったか把握する間もなく、黒髪の男がエリクに襲い掛かる。
慌てて割れた瓶を振りかざすエリクに怯みもせず、2発めを顔面に叩き込んだ。『ごぎっ』と何かがが潰されたような擬音。止めとばかりに首絞めに入った。
「佐山っ!」
目の前に、エリクの首を締める佐山がいた。エリクは既に瓶から手を放し、苦しそうにもがいている。
山小屋の中は、騒然となった。ジェフやマイケル、それにスタッフたちがなだれ込み、あっという間にその場を制圧した。
「ああ、佐山、もう離せ! そいつ気を失ってるよ」
泡を吹いているエリクをなおも締め上げる佐山の腕を取ると、あいつもようやく手を放した。
「倫、大丈夫か? はっ、その顔、殴られたのかっ。この、こいつ!」
伸びているエリクの胸倉を再びつかみかかる。僕は慌てて佐山の腕を引っ張った。
「佐山、もういいからっ。おまえ、来てくれたんだ」
僕は怒りと興奮で肩を上下させる佐山に抱きついた。あいつの逞しい胸、懐かしい匂い、なにもかもずっと僕が求めていたものだ。後から後から涙が溢れてくる。
「倫……遅くなってすまん……」
「ううん。助けに来てくれて、ありがとう……」
あいつは大泣きする僕をしっかりと受け止め抱きしめてくれた。遠くからサイレンの音がする。
僕らは言葉を掛け合うこともなく、もう二度と離れないよう強く強く抱き合っていた。
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