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TAKE 16 チーズ
しおりを挟む「カーッツト!!」
乾いた大きな音に、スタッフのため息と足音が混ざる。熱を放射するライトが一斉に落とされた。
「お疲れっ! いやあ、良かったよ。素晴らしいっ」
「いえ、大丈夫でしたか?」
「もちろん。最高だよっ。さあ、二十分休憩するから、休んでていいよ」
気が付くとまだ僕は享祐に抱きついていた。慌てて体を離し顔を見合わせる。享祐も安堵したような表情だ。
一昨日の練習は実を結んだようでほっと息を吐く。
「飲み物どうですか?」
ADさんが声をかけてきた。
「コーヒーもらえるかな」
こんな一言でも享祐はクールだ。僕はメイクさんに呼ばれて乱れた髪を直してもらうことになった。二人ちらりとアイコンタクトして控室に戻った。
「伊織さん、益々凄いことになってますよっ。感動しました!」
控室で髪を直してもらっていると、マネージャーの東さんが飛び込んで来た。頬を紅潮させて、まるで追っかけのファンだ。でも、素直に嬉しい。
「私もですよ。この現場にこれてラッキーだって思ってます。越前さんも伊織さんも滅茶苦茶カッコいい!」
ヘアメイクさんが追随する。もう、そんなに褒め殺しされたら困るな。
「まるで本当に付き合ってる二人のようですよ」
――――そのフリはしてるよ。
「ですよね。キスシーンも好きが溢れてますっ」
――――それは……僕はそうだけど。
「来週の記者会見が楽しみですよねー。局側も張り切ってるって監督さんが仰ってましたよ」
「そうなの? それは嬉しいな。ワクワクするよ」
一週間後、この局の会議室で製作発表が行われる。その後はそのまま撮影だ。連続ドラマも第三話を迎えて佳境に入る。
反発しながらも惹かれていく二人が、お互いの気持ちに気付く事件が起こるんだ。
あ、でもこれはあくまで原作の話だから、ドラマでは必ずしもそうなるかはわからない。脚本兼監督の林田さんの心づもり一つだ。
撮影終わりに享祐が声を掛けてきた。一緒に帰ろうというのだ。
「大丈夫かな……雑誌記者さんとか」
「平気だよ。共演者同士仲良くするのはおかしなことじゃないし。でも外食より家飯にしようぜ」
ぽんぽんと僕の頭を撫ぜるように叩いた。
「そうだね。なんか取って食べよう」
僕らは本物の恋人同士のようににこやかに笑顔を交わす。黒の超カッコいいスポーツカーに乗り込んで家路についた。
「今日の収録の成功を祝って乾杯」
「お疲れ様っ」
スリムでお洒落なビールグラスを二人合わす。秋口に入っても冷えたビールはやはり美味しい。ソファーにもたれて頼んだピザを食べる。これも美味い。
「美味い―」
「伊織、唇の横にチーズついてるぞ」
「ホント? ティッシュ……」
「俺が舐めてやる」
「へっ……」
突然、目の前に享祐の顔が……切れ長の双眸が閉じられ長い睫毛がふるふると震えていた。
「あ……」
ぺろりと唇の端を嘗められる。心臓が物凄い勢いで走りだした。当然ビールのせいじゃない。間近で目が合った。くっきりとした二重の目が僕を見てる。
――――享祐……。
僕は自然に瞼を閉じる。それと知ったからか、それともお構いなしなのか。
それはわからないけれど、鼻の頭を通過して、僕の唇にふわりと柔らかいものが触れた。ゆっくりとお互いを食み合う。触れ合うたびに、僕はどんどんと深みにはまっていくのを感じてる。
――――享祐はどうなの? どう思ってる? これもお芝居? ドラマのため?
僕は享祐の背中に腕を絡める。同じように彼の腕が僕の体を抱きしめた。僕らは何も言わずに口づけを続ける。
身も心も蕩けてしまうほど……。だから、ドアを開ける音に気付きもしなかったんだ。
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