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TAKE 23 有頂天と冷静
しおりを挟む色んな感情が駆け巡った配信初日の夜。僕はふわふわしたまま享祐の部屋を出た。
当然のことながら日にちを跨いでしまった。享祐も僕も朝から仕事が入ってる。去りがたい気持ちはあったけれど、本能のまま動くことはなかった。
東さんがタイミングよく電話してくれたおかげで助かった。もう少しで、僕は自分本位の感情をぶつけるところだった。
――――でも、もし電話がなくて、あの雰囲気に流されていたらどうなっていただろう。享祐は……拒否したかな。
僕はまた首を振る。馬鹿な。拒否するに決まってる。今までも越前享祐には浮いた噂がなかった。スクープはもちろん、デート報道だってない。
本命がいるかどうかはわかんないけど、共演者に手を出すような軽々しいことはしない。
――――とはいえ、僕の場合は手を出したことには入らないのかな? キスだけだしな。その先は、ドラマでもないだろうし……。
その先……僕はそれを想像して、また馬鹿みたいに体が熱くなるのを感じた。自分の部屋にたどり着き、閉めた玄関の扉に凭れてふうと一つ息を吐く。
ツイッタでの評判が凄く良かった。その思いがけない朗報に忘れていたけど、僕は今日、自分の偽りようのない気持ちに気付いたんだ。それを正直に表現してはいけないということも。
図らずも、ドラマの駿矢のようになってきた。あいつも相馬亮のことをパトロンとしたくせに、本気になっちゃって。
しかも婚約者まで出てきて身動きできなくなってる。今さら好きだと言って、相馬は信じるだろうか。相馬も駿矢のことが好きなんだ。
それでも駿矢は自分の気持ちに正直なろうとする。
いいよな。僕だってそうしたい。だけど……役者として終わりかもしんないし。少なくとも、享祐のキャリアに傷がつくよ。万が一、享祐が僕のこと好きだったとしても。
「ああ、もう考えても仕方ないことをぐちぐちとっ!」
一人ぼっちの部屋で、僕は声に出して言ってみた。
年末年始、僕は忙しかった。正月用撮り溜めのバラエティー番組。このドラマの番宣に駆けずり回ってた。
――――今の僕にはこれしかないんだ。
「風呂入って寝よ」
明日も早い。三話目の、僕だけのシーン撮りだ。きっと今日の結果を受けて、監督さんもスタッフも上機嫌だろう。僕も元気いっぱいいかなきゃ!
翌朝、現場で僕は拍手で迎えられた。悪い気分じゃないけど気恥ずかしい。
「記者会見からずっと前評判が良かったからね。心配はしていなかったけど予想以上だったよ!」
林田監督は思った通り滅茶苦茶機嫌がいい。僕の背中を嬉しそうに叩いてる。少し痛いよ。
だけど、なんだか不思議だった。周りが有頂天になり、高評価に酔えば酔うほど、僕は冷静になっていく。
――――演技じゃないんだ。
いつか、享祐にそう言えることができたなら。
それが無理なら、僕は駿矢になって、相馬亮を全身全霊で愛するだけだ。きっとそれが、僕にも享祐にも最善のことなんだ。
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