【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

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TAKE 26 妄想ナイト

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「こ、こんなゴージャスなホテル泊まっていいの……」

 京都ウチクラグランドホテル。超一流ホテルだ。京都の街並みだけでなく、東山の大文字も窓から一望できる。今は真逆の季節だけど。

「こちらにとの話でした。伊織さんの部屋はエグゼクティブですよ……」

 それがどれだけ高級なのかも僕にはわからない。今回の撮影にはホテルのロビーもあって、ここを使うのは聞いていた。
 享祐演じる相馬はエグゼクティブなんだから、ホテルも当然高級なんだ。でもまさか宿泊までするとは、そんな予算あんのか。

「とにかく荷物置いて最初の現場行きましょう。越前さんたちはもう行ってるはずです」
「うん、そうだね」

 まだ午前中だ。享祐たちは、例の婚約者とデート中(の撮影をしてる)。僕はお邪魔虫で来たんだよ(笑)。
 このホテルのロビーでも二人でくつろいでるところを突撃するんだ。楽しそうだよね。



 嵐山は天龍寺から野宮神社に続く竹林の小道。京都の観光名所の一つだ。ここで野宮神社(縁結びの神社)に向かう二人をこっそりつける。
 このあたりから、駿矢は嫉妬で言動がおかしくなる。相馬はと言えば……。

「結婚なんて考えたくもないが、お互いのためにはこの方がいいんじゃないか」

 なんて考えてるんだよ。しょうもないよね。僕は原作を読んでる時、この辺でマジ、ヤキモキしたんだ。世間体に流されやがってって。
 でも、お坊ちゃまの相馬とすれば、その判断も仕方のないことなんだろう。

「お、伊織、来たのか」
「享祐……お疲れ様です」

 現場に行くと、天龍寺近くのカフェで撮影隊が休憩していた。集合時間には遅刻してないはずだけど、もう撮影終わったのかな。
 京都の冬はしんしんと寒いけど、風も雪もなくてこれならなんとかなりそうだ。

「ホテル、驚いた?」
「あ……うん。まさかあそこに泊まれるなんて……」
「俺が頼んだ」
「え? どういうこと?」
「クルーは別のホテルだよ。俺ら俳優陣はあそこにしてもらったんだ」

 口の端をくいっと上げ、目元を細める。そして僕の耳元に唇を寄せた。

「俺と伊織だけ、エグゼクティブダブル」

 ええっ……。僕はごくんと唾を呑み込む。それってまさか……。

「同室ってこと? そんな、大胆な……」
「あっははっ。いや、それはまさか。でも、夜、遊びに行くからな」

 僕が真っ赤になっているのを楽しむように、享祐は視線を僕に釘づける。なんだか恥ずかしくなって思わず視線を外してしまった。

「越前さん、三條さん、十分前です。ご準備お願いします」

 スタッフが声をかけてきた。僕は慌てて立ち上がり、メイクさんのところに急ぐ。

 ――――夜、遊びに来るって……胸がざわざわする……。



 この日の撮影、僕と享祐の絡みはない。絡んでるのは享祐と優子さんだ。それを僕はずっとのぞき見してるんだよー。
 なんかもう笑っちゃう。いや、笑ってる場合ではない。駿矢は真剣なんだから。
 一日中、二人を付け回す哀れな男を演じ、撮影は終了した。スタッフ共々近くの和食屋さん(ホテルのレストランではない)で、労をねぎらい、好スタートを切ったドラマのささやかな祝杯上げた。

 夜が深くなるにつれ、僕の心臓は歩みを速めていた。『夜、遊びに行くからな』。享祐の言葉が脳内で何度も繰り返され、息苦しくなりそうだ。
 宴が解散され、ホテルに向かう頃には、すっかり緊張してしまっていた。

 ――――何を考えてんだよ。遊びに行くって、一緒に飲むくらいなことだよ。考え過ぎだよ。

 恥ずかしい妄想が浮かびあがるたび、僕は自分を諌める。
 酒に弱い僕がもしも酔いつぶれたら? いや、もう止めよう。享祐が来る前に、心臓がもたなくなるよ。




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