【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
35 / 82

TAKE 28 甘美な時

しおりを挟む

 これはお芝居じゃなかったのか? 嘘で秘密の関係。僕の役作りのための……。

「伊織……」

 享祐の唇が僕の首筋を這っていく。右手は今にもバスローブを剥いでしまいそうだ。腰に巻いた帯を解き、ぱらりと落ちた。自分の胸がはだけていくのがわかる。

「あ……んん、享祐……」

 抗いたい気持ちとこのままのめり込みたい思いが凌ぎ合う。享祐に抱かれて嬉しくないわけはないんだ。

 ――――だけど……。

「享祐は知ってたの? 僕が、いつもスタジオとか近場のロケ地に行ってたの……。マンションも……」

 僕のデコルテを這っていた唇がつと止まった。そしてふうと息を吐き、僕の顔のところまで戻って来た。

「知ってたよ。誰かなって、気になって……ググった」
「じゃ……じゃあ」
「マンションに越してきたのも知ってた。偶然、引っ越しの日に見かけたんだ」
「え……そうなんだ……」
「でも、俺はそんなに自惚れてないから。俺だって若いころ、憧れや目標としてた俳優のリハなんかには見に行ったし」

 僕ははだけたバスローブの襟を持ち、肌を隠した。残念そうにそれを見つめる享祐。

「だから、候補者リストに伊織の名前があった時は嬉しかったな」
「それって、やっぱり享祐が僕を推薦したの?」
「違うよ。俺はリストを見ただけだ。誤解するな。おまえを選んだのは監督だ。自信を持っていいんだよ」

 自信……。いや、それよりも享祐の言うことを信じるべきだよな。それに、決めたじゃないか。結果が全てだって。

「なあ……。もう止めにしないか?」
「止める? な、なにを?」

 享祐は背もたれに肘をつき、反対の手の指で僕のデコルテで字を書くように動かした。こそぐったい……。

「お互い、正直になるってことだよ。『恋愛ごっこ』でない。本当の」
「それは……その」
「まさか、本気で思ってた? これは『役作り』のためだって」

 それは……少しは疑った時もあったけど。

「俺は、伊織が好きだ」

 ――――スキ? スキってなんだっけ。スキヤキ、スキー……

「好きっ!?」

 飛び上がりそうな心臓が僕の体を跳ねさせる。真正面に享祐の顔があった。黒目勝ちな瞳が二つ。僕を食い入るように見ている。

「あの、あの……」
「何も言わなくていいから……大人しくしてて」

 もう一度、享祐の手が僕の頬から後頭部へと進み、顎を上にと向かせた。

「目、閉じてくれないか」

 言われるまま、瞼を閉じる。僕の脳内の処理能力は完全にストップし、言われるがままだ。ゆっくりと落とされた享祐の柔らかい唇。僕らは再び口づけを交わす。

 その後は、深い碧一色の湖に溺れるような、苦しくも愛おしい、甘美な時が流れていった。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

処理中です...