46 / 82
TAKE 37 もう戻れない
しおりを挟む落ち着かない夜。仕事から帰ってお風呂に入って、缶ビールのプルトップを開けた。あんまり飲まないけど、眠るためには必要かもって思った。
一口飲んですぐに後悔した。夏でもないのに一人で飲むほど、僕はビール好きじゃなかった。
――――ピンポーン!
缶を見つめてため息をついていたら、玄関のインターホンが。僕は電流走ったみたいに驚いてしまった。
――――ま、まさか。いや、絶対そうだっ。
僕は足を縺れさせながらモニターに急ぐ。見るまでもない。ドアの向こうに享祐が立ってていた。
「土産買ってきた」
僕は出張帰りの父親を迎える小さな子みたいに、享祐の周りをまとわりつく。玄関のドアが閉まると同時に抱きついた。
「享祐っ!」
「おおっと、驚いたな」
「会いたかった……」
享祐のいつもの匂いが鼻腔をいっぱいにする。広い胸板に触れると心臓が爆発しそうになった。
「俺もだ。こうして、触れたかった……」
享祐の手のひらに導かれて、僕は少しだけ顎を上げる。そうしたら、すぐに彼の唇が降って来た。それを受け止め、より一層両腕に力を込めた。
お互い、無言でただ抱き合う。もう二度と離れたくない。そんな思いをぶつけあうように。
「これ、美味しい」
享祐のお土産を食べながら、改めてビールを飲む。さっきは苦みしか感じなかったのが、全く別の飲み物のように喉を通っていく。
お土産のお陰ばかりじゃないだろう。誰と食べるか、誰と飲むか。それが大事なんだと改めて思う。
「ロケ、どうだった?」
僕にくっついてビールを飲む享祐に尋ねる。毎晩電話で話していたから、わかっているのに。
「うん、大変だった。伊織に会いたくて……」
「え……それは、僕もそうだったけど」
言葉にされると恥ずかしくなる。照れて、顔が熱くなって、でも嬉しくて俯く。
その背を抱えるように、享祐が腕を伸ばす。引き寄せられた僕は、自然に享祐の肩に頭を預けた。
「抱きたい……今すぐ……」
耳元で囁かれる。享祐の息がかかって、僕はそのまま気を失いそうになった。
――――心臓の音……聞こえてるかな。
体中が心臓になったみたいだ。僕は享祐の額に自分のをくっつけた。鼻の頭が触れる。それからゆっくり、キスを交わした。
「好きだ。もう、おまえを離したくない……」
享祐の唇が愛を語る。僕はそれを塞ぐようにして、またキスをねだる。ソファーは少し狭すぎて、僕らはいつしか床に敷いたラグの上にいた。剥がされた衣類がそこかしこに散らばっていく。
なんだか夢を見ているようだ。ふわふわと空を舞ってしまう僕を、享祐が抱きとめる。どこにも行かないようにと。
「あ……んん……」
血脈と神経の全てを巡っていく快感。僕は深い湖の中に溺れていく自分を感じた。もう、戻れない。享祐に出会う前の自分には。
20
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる