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TAKE 43 僕のドラマ
しおりを挟む控室で、僕はガチで緊張していた。今日、僕にとって最後の出番。クランクアップなんだ。
ついさっき、可南子役の望月さんのクランクアップに立ち合った。享祐に真っ赤なバラの花束をもらって頬も薔薇のようになってた。
「台本見たわよ。期待してる。頑張ってね」
なんて僕に言い残し、華麗に去って行った。
「監督、好きにやっちゃっていいってことですよね?」
現場に戻ると、享祐がセットの椅子に座って聞いてる。表情はいつも通りで、揶揄うような軽口だ。
「あー、すまんな。どうもいいセリフが出てこなくてさ」
嘘だろ。
「たぶん、君らの方がいい言葉を持ってるんじゃないかと思ってね。な、三條君」
享祐の傍まで歩いてる僕に気付くとそんなことをほざいた。
「え? それは、えっと。頑張ります」
僕は享祐がこちらを見てるのがわかって自然と目を逸らしてしまった。
咎められてるとは思わないけど、あんなことを言ってしまったのを今でも後悔している。
「とにかく最後はハッピーエンドで頼むよ」
「力技だなあ」
呆れた様子で享祐が首を振る。今日の現場は相馬亮のゴージャスなマンションだ。
享祐や望月さんは何度かここで撮ってるけど、僕はまだ二回目。駿矢はここにはあまり立ち寄らなかったから。だけど、最終回はここなんだ。
僕の慣れ親しんだ、駿矢の部屋のセットの場面はもう終わってる。もはや、自分の部屋のようだったから、なんだか寂しいよ。
「伊織」
はた目からはぼうっと立ってるにしか見えない僕。享祐が心配そうにのぞき込んだ。
「緊張してるのか?」
「あ、うん。初日のときみたいに……」
享祐の顔、今日初めてちゃんと見た。少し疲れが出ているのように感じたけど、優しさを両方の瞳に湛えて笑みを浮かべている。
なんだか、すっと気持ちが落ち着く。今更だけど、享祐が好きだ。
「俺に任せて……って言いたいけど、そんな必要はないと思ってる」
「え?」
「伊織なら大丈夫だよ。監督は俺ら二人に期待してるみたいなこと言ってたけど、本音は違う」
「享祐……」
「このドラマはおまえのドラマだ。そうだろ?」
どきんと心臓が大きく跳ねた。黒目がちな享祐の瞳が僕を探る。
享祐の言わんとしてること、わかった気がする。自分がずっと重ねてきた『駿矢』を、今僕はここに見てる。『相馬亮』の双眸を通して。
「ありがとう……なんだか、緊張が解けた気がする」
「そうか、良かった」
両方の口角を上げ、頬に細い皺を寄せる。今すぐ飛びつきたくなる衝動を抑え、僕は決められた位置に付いた。
スタッフがざわざわと動き始める。ヘアメイクさんが僕と享祐の髪を直した。
「よし、そろそろ行こうか。シーン67。準備はいいか?」
マンションの一室。そこかしこでOKの声が上がる。僕も頷く。ADさんがフリップを出す。監督の手が風を切るように颯爽と挙げられた。
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