【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
59 / 82

TAKE 47 共感

しおりを挟む

 先日受けたオーディション。なんと最終候補に残った!
 それは文芸誌の大賞を獲った作品の映画化で、制作側の思い入れも強く、監督や脚本家は第一線で活躍している人達だ。キャスト側も、主役はもちろん、脇も名だたる俳優陣で固めている。

 僕の役は主人公男性の息子だ。原作を読んだけど、とても繊細で重要な役、何としても演じてみたい。
 オーディションはこの役だけだから三次にも監督や脚本家が来てた。その中で目を留めてもらったのは自信になるよ。享祐に報告したら(真っ先に電話した)、すごく喜んでくれた。



 あのクランクアップの日、僕はドキドキしながら部屋を訪ねた。撮影は終わってしまったし、もう会えなくなるんじゃないかって心配してたんだ。大失敗した後でもあるしね。だけど、それは思い過ごしだった。

「あれは、あまりに興奮し過ぎてて……その、別に享祐に訴えたわけじゃないんだ」
「伊織の本心かと思ったぞ?」

 シャンパンで乾杯して(どこまでもお洒落)、自ずとその話になる。ソファーに座って僕は少し小さくなった。

「違うよっ。それは、その……でもごっちゃになってたかも。こんなんじゃ役者失格だね」
「そんなことはない。まあ、ほら、共演者同士が付き合っちゃうことってよくあるだろ?」

 共演者同士が結婚することもこの界隈ではよくある話だ。

「ああ、うん」
「それもさ、そういうことだよ。演じてるうちに、ホントに好きになっちゃう。だから、伊織が恥じる必要はない」

 享祐はどこまでも優しい。グラスを置いて、僕の頭を撫ぜてくれた。それから自分の肩に僕の頭を誘導する。

「ほんとのこと言うと……。僕は駿矢に共感してた。嘘をつかずに本当のことを言えたらどんなに素晴らしいかって……僕は享祐の恋人で、心から好きだって言えたら……」
「ん……そうだな」
「でも、それは自己満足なだけだよ。今はそんなことしなくても、こんなに幸せだから、その必要はないんだってわかってる」

 僕の頭を撫ぜる享祐の腕が温かい。彼のいつものフレグランスが僕を包み込んでいくのが心地よかった。

「その時が来たら……」
「え?」
「必要な時が来たら、俺はいつでも公表する。そんなの何にも難しいことじゃない。俺にとっては。だから、それだけは覚えておいて欲しい」
「享祐……」

 僕だってそうだよ。いつでも、今すぐにだって言える。だけど、一時の勢いでそんなことは言わないでおくよ。
 僕はまだ自信がないんだ。この関係を享祐の事務所やファンが、そして自分のも、どう反応するのか。

 享祐の胸に顔をうずめ、しがみつくように腕を絡めた。心臓の音が聞こえる。柔らかい唇が僕の額や頬、小鼻に降ってきた。そっとそれに僕は自分のを触れさせる。
 それを合図に、享祐は僕をソファーへと導き、僕はその身を沈めていく。熱くて甘い夜の始まりだった。



「伊織さん? そろそろ行きますよ」

 僕があの夜のことを思い出していたら、東さんに声を掛けられた。

「はっ、あ、そうだね」

 思わず妄想にトリップしてしまった。いや、妄想じゃないんだけど、現実にちょっと色付けしてあるというか……どうでもいいことだけど。
 今日はバラエティー番組に出るんだ。もうすぐ最終話が配信されるから、その宣伝を兼ねている。僕一人だけど、頑張る。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

処理中です...