64 / 82
TAKE 51 覚醒
しおりを挟む
人の声がずっと遠くで聞こえてる。
『伊織さん、伊織さんっ! しっかりして。救急車がすぐ来ますからねっ』
――――サイレンの音
『三條伊織さん、聞こえますか? 今から病院に行きますよ』
『伊織っ!』
――――サイレンの音
『急いで、そこ、邪魔』
『パトカーどいてもらって、出られないだろっ』
『伊織さん、大丈夫ですからね、もう大丈夫ですからねっ』
――――サイレンの音
『伊織、病院行くぞ。しっかりしろ』
色んな声と音に混ざり合って、享祐の声がした。その都度僕は何か反応しようとするんだけど、どこも動かせない。
腹の辺りが燃えてるように感じる。誰かがしっかり抑えてくれているからなのか、不思議と最初に浴びた激痛に比べれば痛みは治まってる。けれど、ずっと意識は朦朧としてた。
『三條伊織さん、麻酔かけますね』
マスクに白い帽子を付け、目だけを見せてる人が僕の顔を覗き込んで言った。同時に全てが暗転した。
…… …… ……
――――何が起こったんだろう……。
次に気が付いた時、僕の目に映ったのは、時計、白い壁、点滴と管。それからなんかの医療機器。
――――お昼の二時? 僕は確か、九時頃家を出た……。
そうだ。僕は女の人に刺されたんだ。あの衝撃を思い出し、身震いする。咄嗟に手を動かすと、色んな管が下腹部に挿入されていた。
「三條さん? 目が覚めました?」
麻酔を施した人ではない。キャップも服装も違った。淡いグリーンの制服を纏った看護師さんだ。
「あ……はい」
「手術は無事に終了しました。内臓をほとんど傷つけてなくて何よりでした」
「あ、ありがとうございます……」
あの後、何がどうなったのか聞きたかった。けれど、彼女は何も知らないだろう。
「麻酔がそろそろ切れるので、痛くなってきます。痛くなったら、これを押して……」
鎮痛剤についての説明を呆けた頭で一生懸命理解していると、手術をしてくれた医師がやってきて、また色々説明してくれた。
僕を刺したのは果物ナイフほどの短い刃渡りで、場所は脇腹だった。刺される直前体を捩ったのと筋肉が守ってくれたようで内臓はほぼ無傷(ほぼ、なので完全に無傷ではない)。
出血も、直後に止血をした人の手際がよくて少なかったと教えてくれた。
「鍛えてるんだね。腹筋が刃を深入りさせなかったのが功を奏したけど、真正面やられてたら危なかったよ。さすが元戦隊ヒーローだ。あ、私の息子があれ、好きでね」
「はあ……」
とか、能天気に言われてしまった。体を捩ったのは覚えてないけど、身の危険を感じて咄嗟に動いたんだろうな。
「警察が来てるけど、面会は明日って言ってる。犯人は既に捕まってるから、向こうも焦らないだろ」
「あ、あの人、捕まったんですか」
「詳しくは知らないけど、三條さんのマネージャーさん? 彼と管理人さん、それと住人の方で取り押さえたって聞いてるよ」
「そうなんですか……」
東さんの姿があったのは見えていた。それに管理人室には常駐の人がいる。助けてもらったんだ。住人の人って誰だろう。偶然エレベーターから降りて来た人かな。
――――エレベーターホール。そんなに広くないから、逃げられなかった……。
僕の脳裏に、あの時の状況が浮かび上がる。
『あなたは越前享祐を堕落させている』
とりつかれたような目つきだった。けれど、僕が一瞬固まってしまったのはそのせいだけじゃない。
彼女の放った言葉が、ナイフよりも先に、僕に突き刺さったからだ。
『伊織さん、伊織さんっ! しっかりして。救急車がすぐ来ますからねっ』
――――サイレンの音
『三條伊織さん、聞こえますか? 今から病院に行きますよ』
『伊織っ!』
――――サイレンの音
『急いで、そこ、邪魔』
『パトカーどいてもらって、出られないだろっ』
『伊織さん、大丈夫ですからね、もう大丈夫ですからねっ』
――――サイレンの音
『伊織、病院行くぞ。しっかりしろ』
色んな声と音に混ざり合って、享祐の声がした。その都度僕は何か反応しようとするんだけど、どこも動かせない。
腹の辺りが燃えてるように感じる。誰かがしっかり抑えてくれているからなのか、不思議と最初に浴びた激痛に比べれば痛みは治まってる。けれど、ずっと意識は朦朧としてた。
『三條伊織さん、麻酔かけますね』
マスクに白い帽子を付け、目だけを見せてる人が僕の顔を覗き込んで言った。同時に全てが暗転した。
…… …… ……
――――何が起こったんだろう……。
次に気が付いた時、僕の目に映ったのは、時計、白い壁、点滴と管。それからなんかの医療機器。
――――お昼の二時? 僕は確か、九時頃家を出た……。
そうだ。僕は女の人に刺されたんだ。あの衝撃を思い出し、身震いする。咄嗟に手を動かすと、色んな管が下腹部に挿入されていた。
「三條さん? 目が覚めました?」
麻酔を施した人ではない。キャップも服装も違った。淡いグリーンの制服を纏った看護師さんだ。
「あ……はい」
「手術は無事に終了しました。内臓をほとんど傷つけてなくて何よりでした」
「あ、ありがとうございます……」
あの後、何がどうなったのか聞きたかった。けれど、彼女は何も知らないだろう。
「麻酔がそろそろ切れるので、痛くなってきます。痛くなったら、これを押して……」
鎮痛剤についての説明を呆けた頭で一生懸命理解していると、手術をしてくれた医師がやってきて、また色々説明してくれた。
僕を刺したのは果物ナイフほどの短い刃渡りで、場所は脇腹だった。刺される直前体を捩ったのと筋肉が守ってくれたようで内臓はほぼ無傷(ほぼ、なので完全に無傷ではない)。
出血も、直後に止血をした人の手際がよくて少なかったと教えてくれた。
「鍛えてるんだね。腹筋が刃を深入りさせなかったのが功を奏したけど、真正面やられてたら危なかったよ。さすが元戦隊ヒーローだ。あ、私の息子があれ、好きでね」
「はあ……」
とか、能天気に言われてしまった。体を捩ったのは覚えてないけど、身の危険を感じて咄嗟に動いたんだろうな。
「警察が来てるけど、面会は明日って言ってる。犯人は既に捕まってるから、向こうも焦らないだろ」
「あ、あの人、捕まったんですか」
「詳しくは知らないけど、三條さんのマネージャーさん? 彼と管理人さん、それと住人の方で取り押さえたって聞いてるよ」
「そうなんですか……」
東さんの姿があったのは見えていた。それに管理人室には常駐の人がいる。助けてもらったんだ。住人の人って誰だろう。偶然エレベーターから降りて来た人かな。
――――エレベーターホール。そんなに広くないから、逃げられなかった……。
僕の脳裏に、あの時の状況が浮かび上がる。
『あなたは越前享祐を堕落させている』
とりつかれたような目つきだった。けれど、僕が一瞬固まってしまったのはそのせいだけじゃない。
彼女の放った言葉が、ナイフよりも先に、僕に突き刺さったからだ。
20
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる