【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
70 / 82

幕間 その14

しおりを挟む

「あのファンのこと、知ってたんだろ。なんで向こうの事務所にもちゃんと警告しておかないんだよ」

 享祐は事務所の社長室で青木に詰め寄った。社長も慌てて椅子から飛びあがり、二人の間に入る。
 応接セットにはお茶が準備されていたが、享祐は座りもしない。

「まあまあ、越前君、落ち着いて」
「これが落ち着けるかっ! ちゃんとした理由がないなら、俺はここを退所しますよ」
「ええっ、いやいや、ちょっと待て」
「越前君、あなたの言う通り、私のミスだわ……本当にごめんなさい」

 社長がなだめる横で、青木女史が深々と頭を下げた。表情は硬く、その言葉に嘘はないように思えた。

「まさか、三條君に危害を加えるなんて想像できなかった」
「何度もあのマンションに行ってたそうだぞ」
「それは……」
「そんなの気付くわけないじゃないか。越前君、無理言うなよ」

 怒りが収まらない享祐に、社長もさすがに呆れて青木の肩を持った。自分のタレントを守ることがマネージャーの義務だ。相手は相手で気を付けるべきだろう、というのが社長のスタンス。

「何言ってんですか。正気ですか、社長。僕のファンを名乗る女性が、よそ様のスターを傷つけたんですよ。下手をすればもっとひどいことになってたかも……」

 自分で言って享祐は息を呑んだ。そんな恐ろしいことになっていたら、とても正常ではいられなかっただろう。

「いや、それはもちろん。向こうには謝罪に行ったけど、それで済ませるつもりはない。三條君の状態が良くなったらお見舞いにも行くぞ」
「当たり前ですよ、そんなの」

 享祐は吐き捨てた。実際、伊織の事務所には享祐、青木も同行している。向こうの事務所はここに比べれば小さく若い。
 伊織の怪我が心配したほどではなかったこともあり、返って恐縮された。しかし、享祐の心は申し訳なさでいっぱいだったのだ。

「越前君、あなたが憤るのも当然だし、私も本当に申し訳ないと思ってます。でも、とにかく今後のことを考えないと。大きな事件になってしまったし、放置はできないわ」

 結局、青木も自分のタレントが無事であったことで満足している。少なくとも、伊織が死ぬようなことがなくてホッとしているのだ。享祐はそれすら腹立たしく、まだまだ言いたいことはあった。
 だが、過ぎても仕方がないことを重々承知していた。手術が無事に終わったことで、享祐もいくらか落ち着きを取り戻していたのだろう。

「明日、記者会見を開く。準備してくれ」
「そうね、それはもちろん……弁護士の先生も同席してもらいましょう。社長もいいですよね?」
「ああ、風間先生に頼もう」

 風間というのは、事務所が雇用している弁護士だ。こういう社会はトラブルが多く、彼の出番も少なくない。享祐は世話になったことはなかったが。

「台本はそっちで用意してくれていい。ただ……」
「ただ」
「俺自身が話すから、そのつもりで」

 享祐は話は終わったとばかりにドアへと向かう。

「それは……どういう……」
「どうもこうもない。そういうことだよっ」

 振り向きもせず、享祐はそのまま部屋を出て行った。その姿を見送る青木はため息を一つついた。



「青木君、大丈夫か? 記者会見……」
「大丈夫じゃないでしょうね。でも、やらないと、享祐はウチの事務所から……いえ、この世界から出て行ってしまいます」

 社長は『冗談じゃない。どういうことだね、それはっ?』と、わめきだした。
 それが聞こえているのに知らん顔し、青木は享祐が去った扉を見つめていた。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

処理中です...