【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
73 / 82

TAKE 58 記者会見 1

しおりを挟む

 17時ちょうど。僕と東さんは病室のテレビの前で固唾を飲んでいた。
 たくさんの報道陣の前に据えられた、白いクロスを被せたテーブル。その記者会見場に、スーツにネクタイ姿、年配の紳士が二人着席している。

「右側は事務所の広報の……澤田部長さんですね。もうお一人は弁護士さんかな」

 東さんが隣で独りごとのように呟いた。僕も無言で頷く。

「あ……」

 一斉にフラッシュが焚かれる。その中を濃紺のスーツを纏った享祐が登場した。こんなときになんだけど、めっちゃカッコいい。
 シャツもネクタイもダーク色なのは、この記者会見を意識したんだろう。神妙な顔つきはこの会見に臨む享祐の心を移している。僕の胸は今にも破裂しそうになった。

「お集まりいただきありがとうございます」

 広報の澤田部長さんが記者会見の始まりを告げ、自己紹介をした。隣はやはり弁護士で、風間と名乗った。
 澤田さんから事件の経緯や現状などを報告し、被害者の僕や事務所、ファンの方々等々にご迷惑をおかけしましたと謝罪があった。

 経緯について、澤田さんは以前から加害者『有松若菜』の存在を、事務所側が把握していたと話した。過激ではないにせよ、濃密なアクションを起こすファンの一人だったと。
 それが、今回の僕とのスキャンダルが出た頃から、事務所にこの噂を否定するようにとのメールが何度も届くようになったと言う。

 ――――そんなことがあったなんて。全然知らなかった。

「彼女が越前享祐の自宅(つまり僕の自宅でもある)に、時々現れるようになったのも存じておりました。ですので、越前には常に送迎を付けていたのですが……。まさか、三條さんに危害が及ぶとは考えておらず、痛恨の極みです」

 ううむ。でも、ウチも最大限注意してたしなあ。あの事件は、不可抗力だと思うんだけど。
 僕が複雑な表情をしてたのだろうか、東さんがちらりと僕を見て。

「ウチの事務所だって送迎してましたよね?」
「いや、誰も責めてないよっ?」

 なんて言うもんだから、慌てて否定した。

「私からの話は以上です。越前君……」

 申し合わせたように、広報の澤田さんが首を横に向けて享祐を見た。享祐もそれに応じて自然に一つ頷く。

 ――――享祐の番だ。

 僕が息を呑むのと同時に、テレビはフラッシュの音と光で溢れる。真正面にそれを見据えた享祐の表情がアップにされる。僕はそれだけで気が遠くなりそうだった。

「まずは謝罪の言葉から始めさせていただきます。大変な怪我を負った三條伊織さんには本当に言うべき言葉も見つからないほど申し訳なく思っています。
 僕の……この世で一番大切な人を傷つけてしまった。彼を守れなかったことに、僕は今ほど悔しくて情けない気持ちになったことはなかった」

 えっ!? なにっ?! 

 一瞬の沈黙。直後、テレビ画面の向こうで大きなざわめきが起こった。
 不思議なことにテーブルの後ろに並ぶ三名は身じろぎもしない。ついでに言うと、隣の東さんからは小さなため息が聞こえて来た。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

処理中です...