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第15話 玉の輿
しおりを挟む4時に本日の講義の全てが終わった。僕は迎えの車に乗り込み、再び城南家に戻る。大学への送迎はなんと立花さんが勤めていてくれる。
「お忙しいのに申し訳ないです……自転車でもいいんですが……」
「ご冗談を。そんなことはさせられません。どうぞお気になさらず。これが私の仕事ですから」
晄矢さんにも自転車で通学出来ると主張したんだけど、拒否されてしまった。だから僕は愛車(高校生の時、ばあちゃんが買ってくれた)をアパートの駐輪場に置いてきたんだ。
ずっと大事に乗って来た。埼玉や千葉だって行けるんだから、大学までなんか全然大したことないのに。
屋敷に帰ると僕は即効でスーツに着替え(ネクタイにはちょっと手こずったが三条さんに助けられてなんとかなった)、事務所に向かう。
都心の真ん中に位置するビルの一角に『城南国際法律事務所』はある。城南家の最寄り駅からはメトロで20分ほどだ。
ただ、最寄り駅にたどり着くまでは少し歩く。何より、玄関から屋敷の正門に出るまでの時間、馬鹿にならないのがご愛敬。城南家の人々はそれを避けてか全員車移動だ(祐矢氏はお抱え運転手付き)。
「ここかあ。雑誌で見たことはあるけど、やっぱり大きいし綺麗だな」
天に向かってスパイラルに伸びていく高層ビルだ。各都市には形の変わったビルがあるが、ここもその一つ。
都心の一等地にあるこのビルの10階から13階までを『城南国際法律事務所』が占めている。どんだけ儲けてんねんと言われても笑うしかない。
「はい。相模原様ですね。伺っております」
10階の正面受付で名前を告げると、晄矢さんが言った通りすぐに案内してくれた。
10階からエレベーターに乗り13階に行く。廊下を歩くとガラス張りの個室に弁護士の名札が一つ一つかけてあった。これはパートナーと呼ばれる弁護士たちの部屋なのだろう。
案内の方によると、10階はジュニアアソシエイトとパラリーガルがいて、11,12階はシニアアソシエイトの部屋と会議室になっているらしい。そして13階はパートナーたちが応接室付きの部屋にいる。ここには一人ずつ、秘書さんもいると説明してくれた。
「おお、来たか。待ってたよ。スーツ、イケてるじゃないか」
僕が部屋に入ると、書類に目を通していた晄矢さんがさっと顔を上げた。目つきが一瞬厳しい。でも秒で和らぐギャップに僕の胸がきゅっとなった。
「忙しいところ邪魔しちゃっては……なにかやることありますか?」
「ああ、お願いしたいことがあるんだ。このデータなんだけど……」
立ち上がった晄矢さんはやはり背が高い。姿勢もいいからスタイル抜群に見えるよ。
僕はデータの抽出を頼まれた。やることがあって良かった。もしかしたら、僕のために作ってくれたのかもしれないけど。
パソコンに向かって言われたことをやっていると、秘書さんが珈琲を持ってきてくれた。三十代前後の感じだけど、綺麗な人だ。
そう言えば、受付の人も僕を案内してくれた人も美人だった。こんなに綺麗な人に囲まれているのに、晄矢さんは彼女いなかったなんて俄かには信じがたい。この事務所の御曹司なら、絶対玉の輿だよね。
なんだか複雑な心境になる。まさかと思うけど、晄矢さんはほんとにゲイなんじゃないだろうか。
――――え。じゃあ僕は玉の輿なのか?
自分で考えて笑えて来た。そんなことがあるわけがない。僕は再び数字に没入した。
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