43 / 111
第42話 ご褒美
しおりを挟む電気代が青天井と思われる豪華なシャンデリアの下。場違いそのものの高級クラブのVIPルームで、僕は凍り付いた場にいた。
僕が個人的な意見をのたまった瞬間、みななぜかだんまりを決めてしまったのだ。
「相模原君、きみ、すごいじゃない。今のぐっと来たわよ」
その時、救いの声が。凍り付いた場の先陣を切って、黛さんが肩をぽんぽん叩いて褒めてくれた。褒めて、くれたんだよな?
「ああ、本当だ。うん、いいこと聞けたよ。さすが城南先生が認める書生さんだ」
藤堂社長も隣の脇田副社長も喜んでくれた。周りのお姉さんたちも、ほっとしたようにグラスを傾ける。
苦虫を嚙み潰したような祐矢氏。してやったりの陽菜さんが親指を立てて見せてくれた。そして、晄矢さんの表情を恐る恐る見ると。
『す・ば・ら・し・い』
と、唇を動かし、パチンとウィンクしてくれた。
――――わ。良かったっ!
それからは一気に場が和み、一人を除いていいお酒の場になったようだ。いや、その一人だって、今回は接待だったんだから、悪くなかったよね? そう願いたいのだけど。
「相模原君にはぜひうちの会社に来てほしいけど、弁護士志望なんだよな」
藤堂社長が僕を見ながら残念そうに言う。
「はい。そのつもりで勉強しています」
「よし、じゃあ君が弁護士になったら、うちの担当になってもらおう。いいよね、城南先生」
苦虫がいが虫みたいになってる城南先生。無理やり笑顔を作った。
「そう……ですね。まだいつ弁護士になれるかわかりませんが……」
「すぐになれるわ。ねえ?」
黛さんが僕の肩にしなだれてきた。どうやら酔いが回ってるらしい。
「すぐには無理ですが、頑張ります」
「おお、優等生だな。あれ、進んでないじゃないか。これ、高いお酒だよ」
脇田さんが僕に高級ウイスキーが入ったハイボールのグラスをぐいっと押し付ける。
――――うっ! これは……。
「すみません、脇田さん。相模原はアレルギーがあって。こっちでお願いします」
晄矢さんっ! ありがとう! あの日の醜態を知るのは晄矢さんだけだ。救いの手を伸ばしてくれた。
酒に見えるけど、多分ノンアルコールだ。晄矢さんはハイボールの入ったグラスとそれを交換し、乾杯の仕草をする。僕もすぐにそれを応じた。
「ああ、そうか。すまんすまん」
「いえ、無作法で申し訳ありません」
「いいの、いいの。あ、私もハイボール作って、晄矢先生」
「仰せのとおりに」
なんとか危機を脱したところで、僕はトイレに立った。本当はこのままドロンしたいけど、無理かなあ。
「涼」
化粧室の洗面所で手を洗っていると晄矢さんが入って来た。
「あ、お疲れ様です」
「ああ……涼、さっきの切り返しは素晴らしかった。会社のアウトライン、こっちに来る間に予習したのか?」
「あ、うん。記憶するのは得意だから……」
洗面所が狭いからだけど、すごく近いよ。晄矢さんのオーデコロンの香りが鼻孔をくすぐる。
「記憶だけじゃない。理路整然としていたし、ユーモアもあって……俺は魅了されたよ」
「え……ほんと?」
さっと顔を上げる。僕に優しい視線を向ける晄矢さんがいた。思わず目を閉じる。まるでご褒美をおねだりするように。計ったように柔らかい唇が触れた。
誰か来るかもしれない。でも、我慢できない。僕は晄矢さんの背中に両腕を回し、甘いキスに溺れていった。
78
あなたにおすすめの小説
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。
黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。
※このお話だけでも読める内容ですが、
同じくアルファポリスさんで公開しております
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
と合わせて読んでいただけると、
10倍くらい楽しんでいただけると思います。
同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。
魔法と剣で戦う世界のお話。
幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、
魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、
家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。
魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、
「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、
二人で剣の特訓を始めたが、
その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・
これは病気か!?
持病があっても騎士団に入団できるのか!?
と不安になるラルフ。
ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!?
ツッコミどころの多い攻めと、
謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの
異世界ラブコメBLです。
健全な全年齢です。笑
マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。
よろしくお願いします!
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる