【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺

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第74話 大切な人

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 神聖な場であるはずの法廷。胸を打つ晄矢さんの最終弁論に裁判官たちも傍聴人も耳を傾けていた。
 なのに、晄矢さんは突然僕の(だろう)ことを混ぜてきた。みんな、一瞬ぽかんとしたんじゃないだろうか。

「人間は、大切な人のためと思うと、つい視野が狭くなるものです。被告人も岩泉さんもそうだったのでしょう。本当にやらなければならないことは、正しい道は他にあったのに」

 遠くを見るようにふと視線を上げ、どこともなく顔を向ける。晄矢さんは、再びはっきりとした口調に戻した。

「被告人の嘘の供述で、警察や検察を振り回してしまったこと、被告人に変わってお詫び申します。
 ですがどうか、この裁判に関わっている全ての皆様、傍聴されている方々も含め、被告人が、そして我々がどうすればいいのか真剣に考え、判断していただきたく思います」

 晄矢さんは弁護人席に戻る。そして、「これで最終弁論を終わります」と言って着席した。


 第2回公判は2週間後に行われると裁判官から言い渡され、第1回公判は結審した。

 
 だが、この2回目が行われないだろうことは僕でもわかる。岩泉さんが犯行を証言し、それを裏付ける証拠がある以上、鳥飼さんを有罪にできるわけがない。検察側が起訴を取り下げるのは明白だ。そうなれば、即刻釈放されることになる。

 また、岩泉さんに対しては、現金を盗まれた横山氏も石塚製作所の社長も訴えない旨を宣言している。検察が起訴するかは不明だが、おそらく不起訴処分になるだろうと輝矢さんが教えてくれた。



「お疲れ様……」

 東京地方裁判所の玄関ホールで、僕は晄矢さんを待ち伏せした。待ち伏せって言い方悪いけど、やっぱり労をねぎらいたい。そして、今の感動も伝えたかった。
 輝矢さんと一緒に廊下を歩いていた晄矢さんは、僕を見つけると一人駆けつけて。

「見に来てくれたんだ」
「うん……輝矢さんが教えてくれて。素晴らしかったよ……すごく……かっこよかった。本当に」

 言いたいこと沢山あったのに。どういうわけか涙がこぼれてきて、そのまま言葉にできなかった。

 ――――会いたかった……。

『大切な人に。その人が頑張ってることを無視して、私の庇護を受けろと上から目線で』

 違う。僕は勝手に逃げたんだ。自分の気持ちや体の変化についていけなかったんだ。それに、やっぱり住む世界が違うことに、怯んでいた。
 もっと二人できちんと話し合えばよかったんだ。取るべき正しい道。それを怠けてはいけなかった。その煩わしさや不安を超えて、お互いを理解し合う必要があったんだ。なぜなら……。

 ――――こんなにも晄矢さんが好きだから。

 裁判所の玄関ホールだというのに、晄矢さんは泣きじゃくる僕を抱きしめた。何も言わず、ただじっと、逞しい腕で。



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