76 / 111
第75話 仲直り
しおりを挟む晄矢さんの腕に抱かれ、脳内は完全にショートしてしまった。だけど、今度の公判を見たことで、弁護士への強い憧れと希望が胸に溢れたのは本当のことだ。
僕が目指す弁護士の姿が、あの法廷にあった。弁護士として立つ晄矢さんと、それを真摯に見守る輝矢さん。
今度の事件を正しく公判の場に提示できたのは、二人の力があってこそだ。
この二人じゃなければ、何もかもを見逃し、鳥飼さんは5度目の刑務所に送られ、孫に会うこともかなわなかったろう。彼の人生そのものも終わってしまったかもしれない。岩泉さんも、いい方向にはいかなかったんじゃないかな。
そう思うと恐ろしい。弁護士が人の人生を変えてしまうこともあるんだ。けれどだからこそやりがいもある。僕は改めて、弁護士を目指したいという気持ちが強くなった。
それをどうにか伝えようとしたのに。晄矢さんを前にして、僕はなにをしてるのか。
「どうした? なにか言いたそうだな?」
裁判所近くの地下駐車場に停められた車の中。さっきからキスを繰り返している。窓に黒いフィルターを張った後部座席だから外からは見えないとは思うけど……。
「あの……だから。僕も晄矢さんや輝矢さんみたいな弁護士になりたいって思ったってことだよ……本心だから」
「そうか? それは光栄だが」
晄矢さんはふふっと笑う。でも、その双眸は幸せそうで柔らかい。僕はもう一度、キスをねだる。晄矢さんの弾力のある唇が僕のそれを覆った。
「さて……そろそろ事務所に戻らないと。来るか? 久しぶりに」
そうか、まだ仕事中だった。僕が足止めしてしまうとは。
「いや、僕も帰って勉強する。燃えてるときにしないと」
「ああ、そうだな。よし、じゃあ送ってくよ」
僕らはそれから道すがら、今日の公判のことなんか話をした。証言を得るのに苦労した話や、岩泉さんを元夫から守るために引っ越しさせたこととかいろいろ。
僕が出て行ってから、ずっと働きづめだったんだ。
「涼がいなくなったのが辛くてね。おかげで仕事がはかどったよ。動いてないと、おまえのことばっか思い出して……」
「へえ、嘘っぽい」
「嘘じゃないよ。でも……本当にすまなかった。結局俺も傲慢だったんだって思い知らされたよ」
「そんなことない。僕の方こそ……たった一言で態度変えたりして、大人げなかった」
「あ、それもあるな」「なんだと」
これで仲直り? できたかな。軽口を言い合いながら、お互い謝ることができた。はしゃぐ僕らを乗せた車は、すんなりとアパートに到着。名残惜しいけど、ぐずぐずするわけにはいかないね。
「送ってくれてありがと。また、会えるかな」
「当たり前だろ。もしよければ、仕事手伝ってくれないかな。バイト空いた時とかでいいから」
「うん、わかった。連絡する」
晄矢さんが僕の額にチュッとしてさよなら。車を降り、ぼんやりと去っていく車を見送りながら僕はようやく気が付いた。
――――しまったっ! 教授のメールの件、聞くの忘れたあああっ!
62
あなたにおすすめの小説
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。
黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。
※このお話だけでも読める内容ですが、
同じくアルファポリスさんで公開しております
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
と合わせて読んでいただけると、
10倍くらい楽しんでいただけると思います。
同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。
魔法と剣で戦う世界のお話。
幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、
魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、
家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。
魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、
「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、
二人で剣の特訓を始めたが、
その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・
これは病気か!?
持病があっても騎士団に入団できるのか!?
と不安になるラルフ。
ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!?
ツッコミどころの多い攻めと、
謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの
異世界ラブコメBLです。
健全な全年齢です。笑
マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。
よろしくお願いします!
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる