王子様と一緒。

紫紺

文字の大きさ
5 / 151

第5話 昭和荘

しおりを挟む


 結局、僕はアスランを連れて自分のアパートに戻る羽目に。
 金は言い値で払うと言われたのに尻尾を振ったわけではない。それどころか、ろくでもないプライドが頭を覗かして。

『要りませんよ、そんなの。日本の庶民の暮らしをしたいのでしょ? じゃあ、そうしてください。家賃と光熱費は折半。食費は自分の食べた分のみで結構です。
 あと、お金はバイトでもして自分で稼いでください。鞄も財布も盗まれた彼なら、僕は連れて行きますよ』

 などと啖呵を切ってしまった。まあ、これだけ言えば、怯むだろうと思ったんだけど。

『わかりました! 望むところです!』

 なんて、アスランはきっらきらの瞳で承諾した。もちろん、大使館の面々は震えあがったけど、そんなの気にも留めない。



「言っときますけど、風呂もないし、寝る部屋は六畳一間ですよ」

 僕はベッドで寝てるのだが、客布団が一組だけある。親が自分用と言って置いていったものだ。まあ、彼にはそれで寝てもらおう。

「いえいえ、風呂などあっては困ります! 銭湯行かなければ!」

 なんだと。なんとなく、彼の脳内イメージがわかってきた気がする。アスランが妄想しているのは安アパートに住んでる漫画の中の主人公たちなのだろう。

「あ、でも、ホテルから洋服一式は運んできていいですか? まさか、着の身着のままは……」

 と、おねだりポーズで頼んできた。綺麗すぎる顔したアスランにこう出られると、さすがに冷淡にはできないか。

「構いませんよ。僕も下着を貸すわけにはいかないので」

 スマホも安全確保のために外せないと、大使館員たちに懇願されている。それと、もう一つ。

「彼は……どうするんですか?」

 さっきから、つかず離れず付いてくる。アスランの護衛、トーゴーだ。

「俺のことは気にするな。いないと思ってくれればいい」
「そんなこと言っても、実際はいるじゃないですか!」

 口を挟んで来たトーゴーに言ってはみるが、まるで気にしていない。それはアスランも同じだ。

「あ、ありました! あれですね。昭和荘、なんて素晴らしいんだ!」

 古びた2階建てのアパート。モルタルの白っぽい壁は、2年前に塗り替えたんでなんとか見れるが。鉄筋の外付け階段は如何にもな感じだ。こんなのに感動するかねえ。アスランは一人、走り寄った。

「ああ、まさに彼らが住んでいそうなアパートです。憧れでしたー」

 彼ら? あれか。ある宗教の歴史的有名人二人が、こういうアパートに住んでいるという漫画を僕も知っていた。それに憧れてここに住んでいるわけでは断じてないけれど。

「まあ、入って。内装は似たようなもんだよ」
「本当ですか!? 嬉しいです!」

 なにが嬉しいのか。これは想像でしかないけれど、君が暮らしていた部屋のバスルームほどもないと思うよ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...