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第5話 昭和荘
しおりを挟む結局、僕はアスランを連れて自分のアパートに戻る羽目に。
金は言い値で払うと言われたのに尻尾を振ったわけではない。それどころか、ろくでもないプライドが頭を覗かして。
『要りませんよ、そんなの。日本の庶民の暮らしをしたいのでしょ? じゃあ、そうしてください。家賃と光熱費は折半。食費は自分の食べた分のみで結構です。
あと、お金はバイトでもして自分で稼いでください。鞄も財布も盗まれた彼なら、僕は連れて行きますよ』
などと啖呵を切ってしまった。まあ、これだけ言えば、怯むだろうと思ったんだけど。
『わかりました! 望むところです!』
なんて、アスランはきっらきらの瞳で承諾した。もちろん、大使館の面々は震えあがったけど、そんなの気にも留めない。
「言っときますけど、風呂もないし、寝る部屋は六畳一間ですよ」
僕はベッドで寝てるのだが、客布団が一組だけある。親が自分用と言って置いていったものだ。まあ、彼にはそれで寝てもらおう。
「いえいえ、風呂などあっては困ります! 銭湯行かなければ!」
なんだと。なんとなく、彼の脳内イメージがわかってきた気がする。アスランが妄想しているのは安アパートに住んでる漫画の中の主人公たちなのだろう。
「あ、でも、ホテルから洋服一式は運んできていいですか? まさか、着の身着のままは……」
と、おねだりポーズで頼んできた。綺麗すぎる顔したアスランにこう出られると、さすがに冷淡にはできないか。
「構いませんよ。僕も下着を貸すわけにはいかないので」
スマホも安全確保のために外せないと、大使館員たちに懇願されている。それと、もう一つ。
「彼は……どうするんですか?」
さっきから、つかず離れず付いてくる。アスランの護衛、トーゴーだ。
「俺のことは気にするな。いないと思ってくれればいい」
「そんなこと言っても、実際はいるじゃないですか!」
口を挟んで来たトーゴーに言ってはみるが、まるで気にしていない。それはアスランも同じだ。
「あ、ありました! あれですね。昭和荘、なんて素晴らしいんだ!」
古びた2階建てのアパート。モルタルの白っぽい壁は、2年前に塗り替えたんでなんとか見れるが。鉄筋の外付け階段は如何にもな感じだ。こんなのに感動するかねえ。アスランは一人、走り寄った。
「ああ、まさに彼らが住んでいそうなアパートです。憧れでしたー」
彼ら? あれか。ある宗教の歴史的有名人二人が、こういうアパートに住んでいるという漫画を僕も知っていた。それに憧れてここに住んでいるわけでは断じてないけれど。
「まあ、入って。内装は似たようなもんだよ」
「本当ですか!? 嬉しいです!」
なにが嬉しいのか。これは想像でしかないけれど、君が暮らしていた部屋のバスルームほどもないと思うよ。
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