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第8話 王室のお仕事
しおりを挟むお茶を飲んで一服していると、アスランの荷物を持った大使館員がやってきた。スーツケース1つだけという指示に忠実に従ってくれたようだが、この世にこんなデカいスーツケースがあるのかと思うほどの大きさだった。
「これは要らないから、持って帰るように」
アスランは僕の心の声を聞いたのか、それともここのキャパを考えてのことか、半分以上のものをスーツケースに入れたまま返していた。
「荷物はここに入れるといい」
二間の押し入れの上部分半分をなんとか開けた。そこには僕の本を入れた段ボールが突っ込んであったんだ。
「ありがとう。ショウは読書家なんだね。本がいっぱいだ。それに私が読んだことない漫画もあるし」
「漫画良ければ読んでいいよ。あ、さすがに日本語を読むのは難しいか」
自分の荷物を押し入れに入れながら、アスランは残念そうに頷く。
「話すのは随分上達したけれど、読むのはね。向こうで売ってる漫画は全部英語かフランス語に訳されていて、日本語版は見かけないんだよ」
「なるほど」
彼の母国、ラメリア共和国はフランス語が公用語。政治は共和制で議会が執り行っている。国王のランス王を初め、王族は原則政治には関わらない立場を取っていると。
この国の産業は主に観光だったようだけど、最近はレアアースが取れることがわかり、それが国力を上げているのだという。また、その土地はほとんどが王族が持っていた場所だったらしい。
「だから、この頃僕らは突然金持ちになってしまってね。と言っても、採掘や売買は国が統括してるから、儲けてるわけじゃないよ」
だがそのおかげで、王族は税金ではなく、土地の貸し代と投資で生活できるようになったとのこと。国際交流や行事という公務は、もちろん積極的に行っていると言った。
「ま、僕はまだ学生だし、王太子(第1王子)の兄や姉たちにお任せしてるけどね」
なので、呑気に日本旅行などできるわけだ。
「あの、ご近所に挨拶とか行かないの? ショウ」
片づけが終ったところで、アスランが聞いてきた。漫画で仕入れた日本文化なんだろうな。ちょっと小太りの大家さんか、もしくは美貌の未亡人を想定してるとか?
「ああ、そうだな。お隣さんだけには行かないと。大家の娘さんが住んでて、大家代わりで頑張ってくれてるんだよ」
隣に住んでいるのは、この昭和荘を経営している森家の長女、沙知子さんだ。今は大学3年生だったかな。細い体で頑張り屋さんなんだ。
まあ、このアパートには面倒な人はいない方だから、そんなに困ることはないとは思うけど。それでも、組費の回収やゴミ捨て場の掃除とか、若い人が嫌がりそうなことも率先してやっている。
「うん、行く。行くよ!」
まるで珍しい場所への観光に行くかのように、アスランは勢いよく立ち上がった。
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