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第10話 トーゴーと沙知子さん(沙知子視点)
しおりを挟むショウこと田中が沙知子の部屋に来る前、トーゴーは沙知子の部屋のインターホンを押していた。彼らに先んじること20分ほど前のことだ。
「どなた……でしょうか」
いきなり現れた彫りの深いイケメン。背格好からは、格闘家のような雰囲気がする。なにも考えずドアを開けてしまったことを、沙知子は後悔していた。
「初めまして。おれ……私はこういうものです」
さっと名刺を差し出された。
「フランス語? よ、読めないんですが」
「あ、失礼。裏に日本語が」
「は、はい。えっと。外務省直轄警備部要人警護課……? 佐伯……東吾さん」
そう、実はトーゴーは苗字ではなく名前。しかもトーゴ。
この名刺は半分本当で半分嘘だ。外国でアスランを警護する際に、手っ取り早く作る肩書。警護する対象がラメリア共和国の第二王子であることを隠すためには仕方がない。
「実は、隣の田中さんの家に、某国の要人が住むことになりました。日本文化、特に庶民の生活を実地体験するためです」
「は、はあ。庶民の生活ですか」
庶民ではあるけど、さらにその下の底辺に近いけどな。と、沙知子は割と酷い感想を持った。
「でも、どうして田中さんが……」
「彼に白羽の矢が立ったのは、偶然ではございません。共通のご友人繋がりです」
「ああ、そうなんだ。もしかして、田中さんが載せてるウェブ小説のファンだったりして?」
沙知子は初めて会った日から、田中が竜ケ崎の名で載せている小説の読者になっていた。話はよくわからないが、新作が出れば必ず読み、イイネを付けている。
「え? あ、ああ、はい。その通りです」
アスランを第二王子とは言えないので、要人はギリギリの暴露ではある。
「それで、彼を陰ながらお守りするため、あなたの家のベランダを貸して欲しいんです。使うのは1日のうち2、3時間程度です。睡眠を取らないわけにはいきませんので」
「そ、それならリビングのソファーでも……」
何故そんな親切なことを言ってしまったのか。全くの初対面の格闘家みたいな男をリビングのソファーで寝させる? 彼の言うことを丸々信じたわけでもないのに。
「いえいえ、その必要はございません。私は外で寝ることに慣れております。ただ、夜中でも彼らになにかあっては困ります。あのベランダなら、すぐに駆け付けられます」
「そんなに危険なお立場なのですか? 誰かに狙われてるとか」
沙知子は今度は心配になった。こんながっしりした人が四六時中見張らないといけないような人物って。
「ああ、いやいや。これも仕事なので。何かがあってからでは遅いので。用心に越したことはない。そうお考えいただければ」
全くの嘘ではない。だが、彼が第2王子である限り、そして今や、大富豪で有る立場だから危険がないわけではないのだ。だからこそ、自分がこうして張り付いている。
「気休めにならないかもですが。自分は女性には興味がないので。たとえ、貴方のような美しい人でも」
「は? あ、ああ、はい」
さっきまで表情の乏しいトーゴーが、やや照れくさそうに笑みを浮かべた。それで沙知子は決めてしまった。彼にベランダを貸すことを。
自分と田中の接点が少しでも多くなるのだ。断る理由はなかった。
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