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第11話 某国の要人
しおりを挟む二人が既に挨拶を終えていたと全く知らない僕は、トーゴーが沙知子宅のベランダにテントを張っていたのを見て、すっかり怒り心頭になっていた。
いつの間に、どうやって沙知子のところに転がり込んだのか。
「お、おまえなんだって、こんなところに!」
「ショウ、言っとくが俺は彼女に許可を取っているぞ」
「きょ、許可だと?」
「そうです。あの、夜だけここに居させてほしいと。部屋には決して入らないからと」
「で、でも……」
いやいや、あんた、それは危険すぎるでしょう。若い女性のベランダに、こんな若くて……イケメンの奴が。いかにラメリア共和国のお墨付き人物とはいえ(お墨付きかどうか、僕も半信半疑なところだ)。
「夜ならカーテン閉めちゃうし。ほら、寝室は隣の部屋なので」
と、閉じられたドアをさす。彼女の部屋は2LDKなので、それも可能なのだが。
「し、しかし」
こうなったら僕のベランダで面倒見るしかない。沙知子さんに迷惑をかけるわけには。
「どうせ俺はここに深夜の数時間しかいないんだ。それ以外は任務がある」
任務……。つまり、アスランにべったり張り付くってことだ。
「さ、沙知子さんには言ってあるのか? その、アスランが」
「某国の要人だと話している」
わざと声を大きくしてトーゴーが言った。つまり、第2王子とは言ってないようだが。それで、隠していることになるのか?
「と、とにかく田中さん、落ち着いて話を聞いてください」
僕の後ろでふるふるしている沙知子さん。ようやく僕は自分が彼女の部屋に上がり込んでいたことに気付いた。
「そ、そうですか。了解しました。ていうか、本当に申し訳ありません。御迷惑を……」
沙知子さんから、彼女が本当にトーゴーのテントを許可したと知り、とりあえず僕は頭を下げた。にしても、やっぱりモヤモヤする。
「いえいえ。私もなんだか楽しくなっちゃって。某国の要人の方をこのアパートにお迎えするなんて」
なんだか本当に嬉しそうだ。僕と沙知子さんは、彼女のリビングで向かい合って座っている。彼女の部屋にはソファーとテーブルがあるんだ。
で、彼女はアイスコーヒーを出してくれた。アスランとトーゴーはめんどくさいので僕の部屋に帰している。
「施錠だけはきっちりお願いしますね。にしても、興味ないとか、失礼な奴だ」
「ああ。それは。彼は、その、ゲイ……てことなんだと」
「え! あ、ああ、そうなんだ」
な、なんだと。トーゴーの奴、そんなこと一言も。
――――え? それって、僕には危険だってこと? いや、まさかそういうことじゃないよな。男なら誰でもいいわけではないだろうし?
「どうかしました?」
「え? ああ。いえいえ。まあ、彼は仕事には忠実なようなので。でも、なにか困りごとがあったら、絶対言ってくださいね」
これだけは言っておかなければ。王族だがSPだか知らないが、自分の言うことは誰でも黙って聞くと思ってるなら大間違いだ。
「は、はい。ありがとうございます」
沙知子さんはまた僕から視線を外し、ちょっと肩をすくめて頷いた。
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