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第14話 性善説
しおりを挟むのぼせて倒れる寸前まで入っていた僕らは、脱衣所で仲良く並んで扇風機の前に居た。
彼がどうしてもというので、ドリンク(アスランはコーヒー牛乳に拘った)を持ち、腰に手を当てて飲んだ。トーゴーはこれまたいつの間にか消えていた。
「ぷはー! 風呂上りには最高だね! ビールより絶対いい!」
などと、どこかで見たようなセリフだ。僕は普通にスポドリを飲み、ようやく一息つく。
「ありがとう、銭湯に連れてきてくれて。めちゃくちゃ楽しかった」
子供のように素直に感情を表現するアスラン。王族くらい育ちが良いと、こうなるのかな。きっと、全てが性善説で生きているのだろう。いや、それはあまりに短絡的か。
アスランの回数券を自販機で買い、僕らはまだ日が暮れるには時間がある街を歩く。また汗をかきそうだ。
「今日の晩御飯はどうする? 今までは有名店や人気店で食べてたんだろ?」
となりで今にもスキップしそうなアスランに聞いてみる。
「あ、ああ。そうだね。寿司にラーメン、ステーキとか。だからもう、そういうのお腹いっぱいで……。コンビニ弁当も食べてみた。美味しかったけど、毎日はちょっとね」
と、苦笑いを見せた。僕がコンビニでバイトしているので遠慮してくれたのかもしれない。
「あんなの毎日食べてたら、太っちゃうよ。僕は割と自炊してる。うまくないけど」
「ああ、そうなんだ! 自炊と言えば、トーゴーは料理上手なんだよな。まあ、サバイバル食って感じだけど」
さ、サバイバル食。まさか、山にいる獣なんかを料理するんじゃないだろうな。ここでは無理だと思うけど。
「じゃあ、今晩はなにか作ろうよ。私も手伝うから!」
「それなら、俺が一肌脱いでやろう」
「えっ!」
僕とアスランの間に、またまた突然トーゴーが現れた。今度はどこから来たんだよ!
――――本当にアスランに張り付いてるんだ……。アスランにとってはそれが普通のことなのかな。
「なんだよ。トーゴーは邪魔しないでくれないか?」
そのアスランが珍しく口をとがらして抗議している。突然現れたのに、銭湯の時もそうだったが驚いた様子はない。やっぱり慣れっこなんだろうな。
「おまえの手伝いなんて、邪魔になるだけだ。ショウ、せっかく知り合えた仲だ。今晩は俺が手料理を振舞ってやるよ」
「いいけど……、まさか、公園の鳩とか池の鯉が材料じゃないだろな」
ちょっと揶揄ってみた。僕も料理が得意というわけではない。食費を削るのには自炊が一番なんだ。だから、作ってもらう分には大歓迎なんだけど。
「あれ、それは駄目なのか?」
「お、おい! そん……」
慌てた僕に、トーゴーは噴き出した。
「冗談だよ。俺も高校までは日本に住んでたんだ。ちゃんとスーパーで食材買ってくるよ」
全く、なんでそんなつまんない冗談言うかな。
「隣の大家さんも呼んでくれないか。世話になるので」
ムッとしていた僕に、なんとも古式ゆかしい日本人のようなことをトーゴーが言い出した。あ、彼は日本人か。
「うん! 私は賛成だよ! いいよね? ショウ」
アスランは今度は青い瞳を輝かして僕に迫ってきた。断る理由はないけれど。
――――沙知子さんは嫌じゃないかな。呼ぶのは構わないんだ。時々、作り過ぎたと言って、お惣菜をもらったこともあるけど……。
その時も、僕の顔を見ることなく。きっと憐れんでるんだろうな。
――――でも、今日は僕一人ではなく珍しい外人さんがいるんだ。興味があるかも。
「わかった。誘ってみるよ」
僕のその答えに、二人は満足げに頷いた。
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