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第15話 沙知子の部屋(沙知子視点)
しおりを挟む銭湯の帰り道、男衆たちの間でそんな計画が進行中とも知らず、沙知子は寝室のベッドの上でのたうち回っていた。
といっても、気分が悪いわけではない。枕を抱きしめ、ため息をつきながら何度も寝返りを繰り返しているのだ。
――――なんか今日、いっぱい田中さんとお話した! それにあのトーゴーとか言う人のおかげで、接点ができた!
嬉しくて仕方ない。どうにも顔がにやけ、笑みが壊れた蛇口のように溢れこぼれていくのだ。
――――それに、トーゴーさんも要人のアスランさんも、みんなハンサムで綺麗!
トーゴーはゲイらしいが、別に見る分には関係ない。がっしりした体つきもカッコイイ。
アスランは金髪青い目の、まるで映画から抜け出してきたような美青年だ。柔らかな物腰もいい。
――――やっぱり、田中さんは私に幸運を届けてくれる人だ。ここに引っ越してきたのは正解だったんだ!
そう思うと、なおもまた胸がいっぱいになる。
沙知子は田中に初めて会った日、自分の悩みがなんだかつまらなく思えてきた。夢に向かって壁にぶつかりながらも前に進んでいる(と、沙知子は田中のことをそう思った)彼に比べれば、こんな壁、大したことない。
そんな気持ちで高校生活と向き合った。するとどういうわけか、なにもかも好転していった。仲良しの友人もでき、意地悪な人間たちが去っていった。
『諦めたらそこで試合終了ですから』
その名セリフの漫画も改めて読んだ。それも彼女にとって大きな勇気になった。
『私、大学に入ったら、昭和荘に引っ越すから。大家の仕事もする』
家族にそう宣言した時、両親はたいそう驚いた。けど、反対はされず、むしろ喜んでくれた。
家業を継ぐつもりは全くないのだが、両親にとってはそう聞こえたのかもしれない。
――――本当の理由聞いたら怒るかもなあ。ま、構わないけどね。ちゃんと大家業はやってるつもりだし。
それにしても。と、沙知子は改めて思う。某国の要人ってどういう立場の人だろう。アスランはまだ若いし。
トーゴーからは某国の国名を教えてもらっていない。わかればすぐに調べるのだけれど。アスランの風貌からは、欧州かなとは思う。でも、国の数が多すぎて彼女の手には負えなかった。
――――田中さんに聞いたら教えてくれるかな。いやあ、話しかけるネタがあるだけでも嬉しいー!
またも寝返りを打つ。そこに、突然インターホンの音が。
「え? また誰か来た?」
沙知子はささっと乱れた髪と洋服を直し、玄関に向かった。
「はい? どちら様ですか?」
トーゴーが来た時は、全く何も考えず開けてしまった。さすがに不用心だったと反省した沙知子は声をかける。すると……。
『あの、隣の田中です。何度も済みません』
心臓が止まるかと思った。
――――今日はなんて日なの!
ときめきと驚きが一度にやってきた。沙知子は激しくなる動悸を胸に秘めながら、ドアを開けた。
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