19 / 151
第19話 田中明夫の人物像(トーゴー視点)
しおりを挟む田中とアスランが、6畳の部屋で爆睡している真夜中。トーゴーはその真上の屋上で仁王立ちをしていた。
その視線の先は漫然としていながら、周囲100メートル内に不審な気配がないかを探っていた。
――――ん。
彼の胸ポケットが揺れる。スマホが着信したのだ。
「ああ、俺だ。うん、そうか。ご苦労」
そう言ってあっさり切ると、送られてきたファイルを開き鋭い目を走らせる。
――――ふうん。田中は作家志望か。夕食ではそんなこと一言も言ってなかったが。
彼が目を通しているのは、彼の部下が調査した『田中明夫』の人物像だった。家族構成に学歴、職歴、友人。それに政治指向等など。
一緒に暮らすとアスランが言い出した時、大使館が簡単な身辺調査はしていたが、トーゴーはより詳しく調べさせた。あの出会いから、彼らの敵対勢力の罠とは考えられなかったが、やはり油断は禁物だ。
――――ペンネーム、竜ケ崎翔ねえ。めい一杯背伸びした感じの名前だな。田中明夫だって、一周回って悪くないと思うがね。
作風は広義のミステリ。今、日本では一番読まれているジャンルなんだろう。何度も公募に出しているがいい結果はなさそうだ。
大学出てから、ずっとバイト。あの昭和荘には大学時代から住んでいる。
――――なんか、読んでるだけでもキツイ経歴だな。現在、29歳。彼女いない歴7年。学生時代に付き合っていた女性は、就活しないで夢を追いかけたショウ(田中)を応援する気概はなかったと。
まあ、その頃から予選落ちを繰り返していたのなら仕方ないか。と、トーゴーは一つ息を吐いた。
ウェブには彼のそういう残念作品がいくつか掲載されていたが、お世辞にも人気とは言えず、読者数は限定的だった。
―――――ん? なんだこれは。ジャンルがミステリというのは冗談か? こんなのトリックって言えるんだろうか。ひでえな……。
短めのを見つけ、さくっと読んでみたトーゴーの率直な感想だ。
この作品に限ったことなのかもしれないが、あまりに無理やりすぎる。こんな状況には1パーセントの確率でもなりえないだろうに。
――――まあ、お話なんてこういうものなのかもな。俺はアスランと違って小説はおろか漫画も読まないしな。
それなりに納得してスマホを胸ポケットに戻した時だ。トーゴーは不審な気配をキャッチした。
アパートの前の道路に植えられた街路樹、欅。夏の盛りである今、そのたっぷりある枝葉が一瞬、不自然に揺れた。
トーゴーはそこに潜む影を睨みつけた。動こうと思えば動けたが、トーゴーは微動だにせず、ただ眼力だけで樹の中にいる気配と対峙した。
――――早速来やがったか。大使館にあっち側の奴がいても不思議じゃないしな。
自分がここを動かなければ、あの気配の主は向かってくるどころか姿を現すこともない。トーゴーはそう確信していた。
その確信は数秒後、現実となる。小さな枝の揺れと同時に、気配は息を吹きかけたろうそくの火のようにサッと消えた。
トーゴーはそうと気付きながらも、まだ少し揺れる木の枝を見つめている。勢いよく生い茂った夏の樹々の枝葉は、今度は風の吹くまま、ゆっくりと揺れていた。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~
天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。
「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」
「おっさんにミューズはないだろ……っ!」
愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。
第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる