王子様と一緒。

紫紺

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第19話 田中明夫の人物像(トーゴー視点)

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 田中とアスランが、6畳の部屋で爆睡している真夜中。トーゴーはその真上の屋上で仁王立ちをしていた。
 その視線の先は漫然としていながら、周囲100メートル内に不審な気配がないかを探っていた。

 ――――ん。

 彼の胸ポケットが揺れる。スマホが着信したのだ。

「ああ、俺だ。うん、そうか。ご苦労」

 そう言ってあっさり切ると、送られてきたファイルを開き鋭い目を走らせる。

 ――――ふうん。田中は作家志望か。夕食ではそんなこと一言も言ってなかったが。

 彼が目を通しているのは、彼の部下が調査した『田中明夫』の人物像だった。家族構成に学歴、職歴、友人。それに政治指向等など。
 一緒に暮らすとアスランが言い出した時、大使館が簡単な身辺調査はしていたが、トーゴーはより詳しく調べさせた。あの出会いから、彼らの敵対勢力の罠とは考えられなかったが、やはり油断は禁物だ。

 ――――ペンネーム、竜ケ崎翔ねえ。めい一杯背伸びした感じの名前だな。田中明夫だって、一周回って悪くないと思うがね。

 作風は広義のミステリ。今、日本では一番読まれているジャンルなんだろう。何度も公募に出しているがいい結果はなさそうだ。
 大学出てから、ずっとバイト。あの昭和荘には大学時代から住んでいる。

 ――――なんか、読んでるだけでもキツイ経歴だな。現在、29歳。彼女いない歴7年。学生時代に付き合っていた女性は、就活しないで夢を追いかけたショウ(田中)を応援する気概はなかったと。

 まあ、その頃から予選落ちを繰り返していたのなら仕方ないか。と、トーゴーは一つ息を吐いた。
 ウェブには彼のそういう残念作品がいくつか掲載されていたが、お世辞にも人気とは言えず、読者数は限定的だった。

 ―――――ん? なんだこれは。ジャンルがミステリというのは冗談か? こんなのトリックって言えるんだろうか。ひでえな……。

 短めのを見つけ、さくっと読んでみたトーゴーの率直な感想だ。
 この作品に限ったことなのかもしれないが、あまりに無理やりすぎる。こんな状況には1パーセントの確率でもなりえないだろうに。

 ――――まあ、お話なんてこういうものなのかもな。俺はアスランと違って小説はおろか漫画も読まないしな。

 それなりに納得してスマホを胸ポケットに戻した時だ。トーゴーは不審な気配をキャッチした。
 アパートの前の道路に植えられた街路樹、欅。夏の盛りである今、そのたっぷりある枝葉が一瞬、不自然に揺れた。
 トーゴーはそこに潜む影を睨みつけた。動こうと思えば動けたが、トーゴーは微動だにせず、ただ眼力だけで樹の中にいる気配と対峙した。

 ――――早速来やがったか。大使館にあっち側の奴がいても不思議じゃないしな。

 自分がここを動かなければ、あの気配の主は向かってくるどころか姿を現すこともない。トーゴーはそう確信していた。
 その確信は数秒後、現実となる。小さな枝の揺れと同時に、気配は息を吹きかけたろうそくの火のようにサッと消えた。

 トーゴーはそうと気付きながらも、まだ少し揺れる木の枝を見つめている。勢いよく生い茂った夏の樹々の枝葉は、今度は風の吹くまま、ゆっくりと揺れていた。
 


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