王子様と一緒。

紫紺

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第20話 ミレンという男(ミレン視点)

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 ――――あっさり見つけられたか……。

 トーゴーの眼力を避けるように、その男は昭和荘を後にした。足音も立てずに数分疾走し、コンビニの前までやってきた。

「まあいい。今日は偵察だ。僕が近くにいることをしらせたのだから十分と言える」

 男は黒づくめの上下に、やはり黒のウインドブレーカーを着用していた。
 この暑いのにこの男もトーゴーも上着を着ているのは、胸に拳銃のフォルダーを取り付けているからだ。要するに、こいつもトーゴーのほぼ同業者。

「いらっしゃいませ!」

 深夜のコンビニにやってきたこの男は日本人ではない。銀髪にグレーの瞳。髪は耳の辺りで切りそろえた今風だった。
 トーゴーよりは少し小柄だが、やはり筋肉質のスポーツ系。にも拘わらず顔はアイドル仕様の甘めで、そのギャップが印象に残る。

 男は冷蔵室からドリンクを取ると、店員に渡す。

「こちらで清算お願いします……わかりますか?」

 見るからに外人の客に、店員は少しびくついている。時間が時間だけに、不安もあるだろう。
 感染症の大流行を境に、コンビニでは客と店員がお金のやり取りをしなくなった。男もそれは学習しているよう。なんの問題もなく現金での清算を済ませ、ドリンクを手にして店を出た。

 ――――トーゴー……。2ヶ月ぶりか。あいつに会うのも……。

 男は店の前でドリンクのキャップを開ける。見上げれば、夏の夜空に丸い月がぽつねんと浮かんでいた。

 ――――日本も都会では、あまり星が見えないのだなあ。ラメリアなら、降るような星空が見えるのに。

 壁に寄りかかりながら、男は故郷の夜空に思いを馳せる。それはいつしか、苦しくも楽しかった軍での鍛錬の日々に移っていった。


『俺は警護に行くつもりだ。諜報活動はあまり得意じゃないんでね』

 野営訓練の夜。テントの外で、トーゴーは男にそう言った。

『ミレンはどうするんだ? やはり諜報部か?』
『え? あ、ああ。いや、まだ決めてないんだ。僕も……警護にしようかな』

 男の名はミレンと言った。ミレンはちょっとはにかんだ笑顔を見せながらそう答える。

『ああ? なんでだよ。おまえ、ミッションインポッシブルに憧れてここに来たんだろ?』

 トーゴーは呆れた様子で言う。まあ、端からそんな憧れなんて本気にしてないけどな、と続けた。

『ミッションインポッシブルは……別に諜報活動してないよ。大切な人を守るってのが、あの映画のテーマなんだから』

 ミレンは負けじとそう訴える。自分だってスパイに憧れてるわけじゃない。そりゃ、そういう夢を見てたこともあったけれど。

『なるほど。その通りだな。うん、ミレンならきっといい護衛になれるよ。俺も負けないように頑張らんとなっ』

 そう言って、トーゴーはミレンの頭をごしごしと撫ぜた。それがなんだかこそばゆくて、そして心がきゅんと鳴っているのを感じていた。

 ――――星が流れていく。美しい夜だ。

 ミレンは結局、諜報部に進んだ。ここに来たのは任務のため。しかも、現状ではトーゴーと相反するだろう任務……。
 けれど、屋上から感じた強い視線に、ミレンの心は熱く反応していた。

 ――――会いたかった。トーゴー……。

 そっと胸に手をやる。心臓がいつもより早く胸を打っていた。



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