王子様と一緒。

紫紺

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第25話 トーゴーの気持ち

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「エアコンの件、すまなかったな。俺もうっかりしてた」

 夕飯はなににしようかと冷蔵庫の中身を覗いていると、トーゴーが声をかけてきた。今朝、トーゴーはアスランと一緒にここから代官山に出かけたらしい。

「いや、そのことは全然怒ってないんだ。僕だって消し忘れたことはあるよ。トイレの電気なんかもね」
「そうか。俺は暑さ寒さは感覚としてあっても脳内に取り込まないようにしてるから」
「は? なにそれ。どういうこと?」

 トーゴーは何食わぬ顔で続けた。

「え? いや、極寒だろうが酷暑だろうが、俺の仕事は時と場所を選ばないからな。いちいち寒さ暑さを感じてたら仕事にならん。まあ、これも鍛錬すれば身につくことだよ」
「嘘だろ……でも、気が付いたら熱中症で倒れるってことになるんじゃないか?」
「まさか。そうならないための鍛錬じゃないか」

 そう言って笑う。どんな過酷な訓練してきたのか想像も出来ないが、トーゴーにとっては大したことではないようだ。だから、暑くても上着をきっちり着てられるんだな。

「それより、ショウがアスランにあんなふうに言ったこと、俺は驚いたが感謝もしてるよ。あいつもああ見えて王子様だからな。金で解決とかは考えてもいなかったろうけど、なにしろ、あいつには叱る奴がいない」
「トーゴー以外にはだろ?」
「あ? いや、俺だって一応部下だから……」

 意外にもトーゴーは少し困ったような表情を見せた。初めて会った日、撒いたことを怒っていたが、それは彼の任務上のことだったからなんだろうか。

「トーゴーもアスランには甘いんだな」
「ば、馬鹿な。そういうことでは……」

 ん? なんだこいつ。大きな体がなんか小さくなってる……。ただ甘やかしてるんだと言いたかっただけなんだが。そこまでいって、僕はハッとした。

 ――――そうだ。トーゴーはゲイなんだ。ま、まさかこいつ。

 アスランが好きなのでは? 僕はその言葉が喉まで出かかった。だが、すぐそこにアスランがいるのに言えるわけはない。彼は今、僕が渡したコンビニバイトのマニュアルを一生懸命翻訳しながら読んでいるんだ。

「じゃ、じゃあ俺はもう、任務につくよ」
「え? なんだよ。飯食ってくんじゃないのか」

 昨日は奢ってもらっているので、お返しするのはやぶさかではない。

「いや。ここで一緒にいるだけでは護衛にはならないんだ。少し、長居しすぎた。あ、それと、さっき沙知子さんから、昨日のお礼だと言って肉じゃがをもらったんだ。冷蔵庫に入ってるだろ?」
「え。そうなんだ。あ、本当だ」

 下の段に見慣れたタッパが置いてあった。時々彼女がお裾分けと言って持ってきてくれるタッパだった。

「俺の分ももらってるから。だから気にするな」

 ニッと口角の右側を上げると、トーゴーは玄関から出ていく。また屋上にでも行くのだろうか。滅茶苦茶暑いだろうに……。

「まず覚えるのは、レジの使い方と……調理器具に……」

 和室からアスランの声が聞こえる。あいつはトーゴーの気持ちに気付いているのだろうか。いや、それよりもアスランはナチュラルなんでは?

 ――――身分の差とか言ってる場合じゃない。果てしなく叶わない恋じゃないか。

 それでも、あいつは命がけでアスランを守るのだろうな。いや、それが仕事だろうけれど。アスランが妃となる人と結婚しても、トーゴーはアスランの護衛として就くのだろうか。

 ――――なんだか切ないな。

 僕は肉じゃがの入ったタッパを眺めながら、小さくため息を吐いた。
 


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