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第30話 コンプレックス
しおりを挟むアスランは予想以上にバイトに適応した。日本語も問題なかったし、明るくて愛想も良い。しかも金髪青い目のイケメンだ。
常連、飛び込みどちらのお客様にも評判がいい。言うまでもないが、いつもはとっても厳しいパートのおばさま方にも好評。
――――トイレ掃除も頑張ってたもんな。やっぱり育ちがいいと、素直なんだよな。一生懸命さが伝わって、好意を持たれるのは当たり前だ。
アスランは外国の王子様で半分ニートみたいな僕とは雲泥の差がある。それだけでなく容姿まで月とすっぽん。まあ、あまりに違い過ぎるから、嫉妬心を持つ気にもならないけどね。
――――きっと、由緒正しいお家柄の、美しい女性と結婚するんだろうなあ。
「アスランは婚約者とかいるの? どこかの国の王女様とか」
だから、こんなふうに尋ねたのはやっかみ半分、ただの好奇心だった。もちろんトーゴーのことも頭に過ったから、アスランがナチュラルかどうか知りたかったのも嘘じゃない。
「ああ……それは」
二人で向かい合っての夕食。本日はソーメンを茹でた。アスランは大葉や冥加よりもネギがいいみたい。器用に箸を使って啜っていた。
「ひと昔前までは、皇族同士の結婚が当たり前だったようだけど、それだと相手が限られて結局いなくなるからさ。兄はラメリアの外交員と結婚したんだ」
「つまり、民間からってわけか。お兄さんは皇位継承一位なんだよね。末は国王だから王妃様かあ」
なんだかおとぎ話のようだ。我が国の天皇陛下も二代続けて民間の方が妃になられている。そういえば、現天皇皇后は外務省の職員だったな。
「そういうこと。だから、お互いが望めば……例えば沙知子さんとだって結婚できる」
「ええっ!? なんだよ、それ!」
ま、まさか本気で言ってないよな?
「んん? なに、例えばの話だよ? それに沙知子さんにだって選ぶ権利あるし……」
「そんなの! アスランに望まれて嫌って言うワケないじゃないか!」
思わず僕は右手を握りしめ叫んでしまった。自分の声の大きさに自分で驚く。
「それは……沙知子さんに失礼だよ。私だって、王子ってだけが自分の価値じゃないつもりだけど」
アスランはわかりやすくムッとしている。確かに、王子が求婚すれば誰でもイエスと言うのは当たり前ってわけじゃない。性格の悪い王子もいるだろうし、皇族なんて窮屈な生活が嫌と言う人もいるはずだ。
――――でも、アスランはいい奴だし。なんにしろイケメン……。
そこまで考えて、自分は相当アスランにコンプレックスを持っていることに気付いた。アスランだけでなく、トーゴーだってカッコいいし……。
「ごめん。つい……アスランは僕から見ると、本当に王子様だから」
「え? いやいや。それより、もしかしてショウは沙知子さんのこと好きなの?」
「ち、違うよ! な、なに言ってんの! それこそ……彼女に失礼だ。僕みたいな冴えないニート……」
思わぬ反撃に、僕はそこまで言って黙り込む。目の前のソーメンをまた啜り始めた。
「ニートなんかじゃないよ。ショウは。コンビニもそうだけど、君が深夜までパソコンに向かっているの、知ってるよ。
それに全然冴えなくない。容姿もだけど、人間として、私は尊敬してるよ。私のような面倒なのを気にかけて居候させてくれて。色々教えてくれて……」
「も、もういいよ。ありがと」
お世辞はもういい。世話になってるからってそこまで言わなくても。僕は俯いたままそう返す。
アスランは小さくため息を吐くと、またソーメンに箸を向けた。
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