王子様と一緒。

紫紺

文字の大きさ
34 / 151

第33話 新しい入居者

しおりを挟む


 アスランと別れ、一足先にアパートに帰った僕は、8月末が締め切りの小説を出すべく、推敲を重ねていた。

 ――ピンポン

 そこに、インターフォンの音が(客人が多くなったのでさすがに修理した)。アスランは鍵を持っているので鳴らすことはないはず。

 ――――誰だろ。間が悪いなあ。

 僕はパソコンを閉じることなく、玄関に向かった。

「はい」
「あ、すみません。隣の森です」

 さ、沙知子さん!?

「は、はい。どうしました」

 僕は慌てて玄関の扉を開けた。そこにはポニーテールの髪を肩に揺らした沙知子さんがいた。表情は緊張しているのか固い。というか、いつもこんな感じだ。
 僕なんかと話すのに緊張するわけはないので、きっと用事があって仕方なく来てるので無表情になるんだろうな。

「あ、あの。今度4号室に一人入られるので……お知らせに」
「あ! そうなんですか。へえ。久々ですね」

 2年前に住んでいた女性が引っ越してから、入居者がいなかった。家賃が安いくらいしか利点がない(僕にとっては最大の利点だが)昭和荘だから不思議じゃないけど。

「はい。実は外国の方で」
「ああ。はい。また留学生でしょうか?」

 外国人だと珍しいと思われがちだが、そうでもない。一時期、留学生が住んでいたこともあった。近くに大学もあるので、あるあるなんだ。

「あ、それが違うんです。アメリカの大学の先生で、こちらには日本文化を研究するためにいらしたそうなんです。日本語はまあまあでしたが、アスランさんのことを話したら、凄く喜んでらして」
「ああ、なるほど」

 ただの趣味と学術的興味では大分違う気がするけれど。アスランは英国に留学してるくらいだから英語もペラペラだ。近くに英語が堪能な人がいるのは心強いだろう。

「いくつか候補があったなかでここを選ばれたのは、アスランさんのおかげかも。でも、御迷惑をおかけしたらと……今、アスランさんは?」
「あ、なんかまだ帰ってこないんですよ。なにしてるんだろ」

 どこか寄るところがあるって言ってたけど……。まあ、どうせトーゴーが一緒にいる。心配は不要だろう。

「そうでしたか」
「僕から言っておきますよ。気になさらず」
「は、はい。よろしくお願いします」

 彼女がぺこりと頭を下げた。もしかしたら、沙知子さんはアスランに会いたかったのかも。僕で申し訳なかったな。

「あ、ちょっと、ちょっと待ってください」

 僕が扉を閉めようとした途端、沙知子さんがドアをグイッと握った。

「なんでしょうか。まだ、なにか?」
「あ、はい。今ちょうど、隣に引っ越される方がみえたので」

 僕は扉を開け放し、アパートの廊下に出た。1号室の方から歩いてくる男性が見えた。

 ――――へえ。意外だな。若い人だ。

 大学の先生というのでもっと年寄りをイメージしていた。
 銀髪にすらっとした肢体。髪と瞳の色に合わせたような銀縁眼鏡はらしいと言えばらしいか。
 ジャケットを羽織ったその男は、沙知子さんと僕を見つけると軽やかに笑った。なんだ、どこかのアイドルみたいだな。

「ミレンさん、こちらが隣の田中さんです」

 沙知子さんは少し頬を赤らめるようにして、僕を彼に紹介した。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...