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第33話 新しい入居者
しおりを挟むアスランと別れ、一足先にアパートに帰った僕は、8月末が締め切りの小説を出すべく、推敲を重ねていた。
――ピンポン
そこに、インターフォンの音が(客人が多くなったのでさすがに修理した)。アスランは鍵を持っているので鳴らすことはないはず。
――――誰だろ。間が悪いなあ。
僕はパソコンを閉じることなく、玄関に向かった。
「はい」
「あ、すみません。隣の森です」
さ、沙知子さん!?
「は、はい。どうしました」
僕は慌てて玄関の扉を開けた。そこにはポニーテールの髪を肩に揺らした沙知子さんがいた。表情は緊張しているのか固い。というか、いつもこんな感じだ。
僕なんかと話すのに緊張するわけはないので、きっと用事があって仕方なく来てるので無表情になるんだろうな。
「あ、あの。今度4号室に一人入られるので……お知らせに」
「あ! そうなんですか。へえ。久々ですね」
2年前に住んでいた女性が引っ越してから、入居者がいなかった。家賃が安いくらいしか利点がない(僕にとっては最大の利点だが)昭和荘だから不思議じゃないけど。
「はい。実は外国の方で」
「ああ。はい。また留学生でしょうか?」
外国人だと珍しいと思われがちだが、そうでもない。一時期、留学生が住んでいたこともあった。近くに大学もあるので、あるあるなんだ。
「あ、それが違うんです。アメリカの大学の先生で、こちらには日本文化を研究するためにいらしたそうなんです。日本語はまあまあでしたが、アスランさんのことを話したら、凄く喜んでらして」
「ああ、なるほど」
ただの趣味と学術的興味では大分違う気がするけれど。アスランは英国に留学してるくらいだから英語もペラペラだ。近くに英語が堪能な人がいるのは心強いだろう。
「いくつか候補があったなかでここを選ばれたのは、アスランさんのおかげかも。でも、御迷惑をおかけしたらと……今、アスランさんは?」
「あ、なんかまだ帰ってこないんですよ。なにしてるんだろ」
どこか寄るところがあるって言ってたけど……。まあ、どうせトーゴーが一緒にいる。心配は不要だろう。
「そうでしたか」
「僕から言っておきますよ。気になさらず」
「は、はい。よろしくお願いします」
彼女がぺこりと頭を下げた。もしかしたら、沙知子さんはアスランに会いたかったのかも。僕で申し訳なかったな。
「あ、ちょっと、ちょっと待ってください」
僕が扉を閉めようとした途端、沙知子さんがドアをグイッと握った。
「なんでしょうか。まだ、なにか?」
「あ、はい。今ちょうど、隣に引っ越される方がみえたので」
僕は扉を開け放し、アパートの廊下に出た。1号室の方から歩いてくる男性が見えた。
――――へえ。意外だな。若い人だ。
大学の先生というのでもっと年寄りをイメージしていた。
銀髪にすらっとした肢体。髪と瞳の色に合わせたような銀縁眼鏡はらしいと言えばらしいか。
ジャケットを羽織ったその男は、沙知子さんと僕を見つけると軽やかに笑った。なんだ、どこかのアイドルみたいだな。
「ミレンさん、こちらが隣の田中さんです」
沙知子さんは少し頬を赤らめるようにして、僕を彼に紹介した。
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