王子様と一緒。

紫紺

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第37話 サンドイッチ(トーゴー、ミレン視点)

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 アスランと大貫のいた公園から、突然トーゴーが居なくなったのは、なにもふざけたわけではない。
 ケーキを預けた大使館員から、驚くべきメールが届いたからだ。

『田中氏の隣に越してくるとのことです。一応お伝えします』

 外国人であったことに引っ掛かったのだろう。大使館員ではミレンの顔を知らなくても不思議ではない。

 ――――ミレン! どういうつもりだ!

 だが、トーゴーは瞬時にその紳士面した男が誰か、何の目的かを理解した。彼はアスランの警護をその大使館員と入れ替わり、即行ミレンを追っていった。



「随分早いですね。来るとは思ってましたが」

 ミレンは昭和荘近くのカフェにいた。優雅に晩御飯だろうか、サンドイッチを食べていた。
 一体こいつの狙いはなんなのか。いや、こいつというより、ボスの狙いだが。トーゴーは黙ってミレンとはす向かいの位置に座った。銀縁眼鏡はケースに仕舞われ、掛けていない。

 ――――相変わらずパッチリ二重だな。まつ毛長すぎだろ。いや、それはどうでもいいか。 

 気を取り直したトーゴーはミレンに迫る。

「おまえの目的はなんだ。隣の部屋を借りるとは」
「え? だって手っ取り早いじゃないですか。せっかく空いてるんだし。僕はあなたみたいにテントで寝泊まりするのは御免です。あ、もしよかったらシェアしませんか?」
「馬鹿言うな。なんで俺がおまえとルームシェアしなきゃならないんだ。俺は、テントで十分だ」
「あ……そうですか」

 あり得ないことだとは思ったが、ミレンは少しだけ期待していたのでちょっと残念に思った。だが、トーゴーはそんなこと気付きもしない。

「アスランの居場所はどうやって探った。王宮への報告は日本に行くとしか伝えてないはずだ」
「ええ? 本気で言ってます? 諜報部を舐めないで下さい」

 元々、諜報部も警備部も同じ国家警察。情報を共有しているのが普通だ。
 だが、今は普通の状態ではなかった。彼らが従っている人物により、神経質な情報戦が引かれている。
 情報は遮断され、お互いをけん制しあう現状。トーゴーが信用しているのは、リヨン大佐がリーダーの、アスラン付きメンバーだけだ。

 今回、アスランが大使館にSOSを投げたことで、大使館に居所が特定されてしまった。当然、トーゴーは緘口令を引いたのだが。

「おまえの主人、ジョルジュ様はなにを考えているんだ。なぜおまえをここに寄越した」
「そんなこと、あなたに言えるはずないじゃないですか」
「敵だからか?」

 トーゴーは険しい表情でミレンを睨みつける。と、同時にミレンの皿からサンドイッチを一切れ取るとパクついた。

「あ……」
「応えろ」

 珈琲をごくりとともに飲み込む。図らずも空腹であったことを思い出した。

「敵……ですか。それは僕にもわかりません。僕は、命令に従うのみ。あ、もちろんどんな命令かは言えませんから」

 ミレンは皿をそっと前に押し出す。トーゴーは黙って二切れ目を手に取った。

「そうか。だが、アスランに手を出したらおまえと言えど、容赦しないからな」

 餌を分けてもらったからではないが、ちょっとだけその脅しは迫力を欠いた。

「わかってますよ。大事な大事な王子様……」
「黙れ! おまえだって知らないワケじゃないだろう。例の噂」
「噂……ですか」
「俺はともかく、アスランはそんな噂、信じてない。だから……アスランを裏切る奴を俺は許さん。たとえ……」

 それが次期王位を継ぐ、第1王子、ジョルジュでも。

「だから……わかってますって……」

 今度のトーゴーの脅しには迫力があった。ミレンは人知れず傷つく。

 ――――わかってるさ。トーゴーの気持ちなんて。あの日、あなたが彼を見つけたその日から。私にはわかってた。

 ミレンの脳裏に、一つのシーンが浮かびあがる。彼らがまだ訓練生だったころ、厳しい海岸端での訓練中のことだ。皇族の御一行が彼らの訓練の様子を視察に訪れた。
 国王と王妃、それに子供達。二人の皇女と二人の王子。金髪に青い目の第二王子は、高校生になったばかりだった。



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