王子様と一緒。

紫紺

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第38話 徹底的に日常

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 結局、僕の二次通過はならなかった。もう数えてないけど、年に10回程度の公募を10年。ああ、100回落選も超えてるかもな。今回のはウェブでの発表だったので、僕は自分の部屋で結果を知った。

「ショウ、ご飯できたよ。食べよ!」

 台所では、本日料理を買って出たアスランが弾んだ声で呼びかけてきた。当然、僕は今日発表があるなんて言ってない。

「あ、ああ」

 何度体験しても口の中が苦く、胸が苦しい。自信を失うたびに自分の身長がどんどん縮んでいくようだ。
 それでも、誰かが自分のテリトリーいると、肩を落とすのも憚れる。これはいい事なのか、それとも悪いことなのか。今は判断が出来ない。

「トーゴーみたいに上手じゃないけど、これ、漫画に出てたレシピなんだよ」

 そんなことも漫画から得ているのか。今はグルメや料理の小説、漫画も人気あるからな。
 僕は『ふうん』と、ちょっと鼻で笑うようにしてダイニングテーブルに付く。

「あれ、でも美味しそうじゃん」
「でしょ? トマト煮込みは私の国でもよく食べられるし」

 鶏肉のトマト煮込みだ。トマトは缶詰を使ったのかな。珈琲のフレッシュが円を描くように掛けてあって綺麗。
 それにサラダとパン。小洒落たレストランのメニューみたいだ。僕は早速、スプーンで掬って一口食べる。

「美味しい……生クリームが酸味を抑えるてるし。トマトも形残ってて食べ応えあるよ」
「そうそう。実はこのトマト、缶詰じゃなくて生なんだよ」
「へえ? そうなんだ」
「スーバーで安売りしてたからね」

 苦かった口の中を、トマトの甘酸っぱさとコクのある生クリームが整えていく。丸まっていた背筋も少しだけ伸びた気がした。

「ご飯にも合うんだけど、食パンも安かったからトーストにしたんだ。明日の分もあるから、明日はご飯にしよう」
「あ、ああ」
「ショウ? どうかした? もしかして、無理してる? 口に合わなかったかな……」

 迂闊にも涙が出てきてしまった。それをどう誤魔化したらいいのかわからない。

「そんなことない……凄く、美味しいよ。アスラン」

 苦笑いして、ティッシュで涙と鼻を拭く。なんだって、美味しいごはん食べて泣くんだか。
 いや、多分、パソコンを閉じた時に流すべき涙が……色々混ざり合って流れてしまったんだ。

「明日はご飯にしよう。アスラン、日本人じゃないのに米が好きだな」
「日本のお米は最高だよ。肉、魚、和食はもちろん、洋食やカレー、どんな料理にも合う。寿司も凄い発明だと思う」

 アスランは僕が何故涙を滲ませたのか、きっと薄々気付いている。でも、大袈裟でなく、慰めるでもなく、いつも通りの会話をしてくれた。

「トーゴーも呼んだら? どうせ上にいるんだろ?」

 落選も日常だ。それなら徹底的に日常にしよう。

「あ……うん。そうだね。下手って言われるかもだけど」

 アスランはちょっとはにかんだような笑みを浮かべる。それでもスマホに手を伸ばし、ダイヤルボタンを押した。
 この笑みはなにを意味するのか。僕は深く考えることもなく、ぼんやりと想像していた。



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