王子様と一緒。

紫紺

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第41話 成田さん(成田視点)

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 大家にクレームをつけた104号室の住人、成田みゆきは、その足で職場である区役所に向かった。
 満員の地下鉄に揺られ、白いブラウスが汗で背中にくっついているのがわかる。効きすぎの冷房も、この瞬間だけは有難かった。

「成田さん、おはよう」
「おはようございます」

 成田は4月に新設されたばかりの室に配属されていた。彼女自身が望んだものでは全くなく、相談者と同年代ということのみが理由だった。

『区民福祉部 出会い・結婚支援室』

 33歳、独身の成田にとっては虐めのような屈辱的人事だった。

「まあ、君もついでに登録してさ、相手を見つければいいじゃないか。給料もらえて一石二鳥だ」

 完全にセクハラな発言をする前上司。だが成田は黙って異動に従った。下手に騒いで問題になれば、こんな村社会的役所ではどんな目に合わされるかわかったものじゃない。2年我慢すれば異動も可能だろう。

 ――――残業は少ないだろうし、一応、給料は上がる。

 成田は裕福とは言えない家庭で育った。大学へは奨学金を使って進学、卒業した。今でもその借金を払い続けている。
 心も貧しい実家では暮らせない。安い家賃のアパートを探し、昭和荘を見つけたわけだ。

 だが、残業がないと思ったのは間違いだった。お見合いは土日に行われることが多く、成田は普通に休日出勤を強いられた。
 そして勤務日も、お見合い希望登録した連中からどうでもいいような愚痴やらクレームに振り回された。

「こんなの見せられたら、逆に結婚に希望なくなりますよね」

 自分の部下である、若い女の子が唇を尖らす。かく言う彼女は、来春、結婚する予定だ。

「ここに集う人たちは、結婚に期待しすぎなんじゃないかな。夢見すぎなんだよ」
「あー、わかります。でも成田さん、現実ばかり見てると結婚なんてできませんよお。少しは夢見ないと」

 などとマウントを取られる始末。結婚を控えてる彼女に『夢見すぎ』と言った自分も馬鹿だったけれど。

 ――――別に現実ばかり見て尻込みしているわけでない。

 成田は思春期の頃から、全く異性に興味を持てなかった。同世代の子たちが、恋バナに花を咲かせていても、その輪の中に入れない。もちろん同性にも恋愛感情を持ったことはなかった。

『アロマンティック・アセクシュアル(恋愛感情、性的欲求がない人のこと)』

 自分がそうだと気付いたのは、二十歳を過ぎたころだった。そのような症状の人の話や小説を読み、自分が全く同じだとわかったからだ。
 実家を離れたのには、結婚が当然と思っている両親と暮らせないと思ったのもあった。

 ――――だから、この仕事は苦痛だ。全く共感できないのだから。

 それでも、この配材は意外にも当たりだったのかもとも思う。ただただ淡々と仕事をこなす。役人の姿としてピッタリじゃないか。



 夜、8時過ぎ。本日もへとへとになり帰路に着いた。街灯に浮かぶ古いアパート、昭和荘が見えてきた。

 ――――あれ? 誰か……いる?

 目を凝らして見ると、部屋の前に背の高い男性が待っていた。

「え? は、花束?」

 スリムだが背筋を伸ばして姿勢よく、、眼鏡の縁がきらりと光った。その両手には鮮やかな花束が抱えられていた。



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