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第50話 王位継承者の嘆き
しおりを挟むミレンとトーゴーが親し気に話していた。だからと言って、二人になにかが芽生えたわけではない。そんなこと、アスランが一番良くわかっている。
トーゴーは任務最優先の男だ。ミレンとの会話は、それに関連したことだろう。そうでなければ、自ら雑談をしにいくなど論外のはずだ。
「私がどれだけ思っても、トーゴーにこの気持ちを伝えることはできないんだ。未来永劫。私がラメリア共和国の王子で有る限り」
嗚咽を漏らしながらアスランが言う。ラメリア共和国は欧州ではごく普通のカトリックだが、信教の自由はあるし、特に同性愛者に対する罰則などもない。そうじゃないと、ゲイの皇室関係者護衛なんて許されるわけないし。
――――でも、王子であるアスランは口にすることも出来ないんだろうな。そこは、想像でしかないけど。
「兄が昨年結婚して、私は少し期待してた。すぐにも子供が生まれたら、私の王位継承は3位になる。二人産まれれば4位に。そしたら、離脱もあり得るかな、なんて」
今現在、第1王子のジョルジュに子供はいないそうだ。だから今でも、アスランは王位継承第2位。
「けどさ。王室って言っても政治的な権力はないんだろ? それでもまずいのか?」
「お飾りでも、伝統ってのがあるんじゃない? スキャンダルも恐れているだろうね」
アスランはティッシュで涙を拭くと、鼻で笑う。
「ラメリア王室が途絶えるのは、国としても良くないのだとはわかるんだ。観光業の目玉だしね。もし、兄のところに子供が産まれなかったら……私がゲイなんて知れたらどんなことになるか。それに……」
「それに?」
アスランはそこで言い及ぶ。なにかまずいことでもあるのだろうか。
「私の叔父がね。ちょっと面倒な人だから……」
言葉を濁す。公に言えないことかもしれないから、僕もそれ以上は聞けなかった。
「私が辛いのは、ミレンとトーゴーが仲良くなることじゃないんだ。いや、それは嘘だね。けど、もっと嫌なのは、こんな時でも私がトーゴーに自分の気持ちを打ち明けられないことだよ。こんなに近くにいて、体も命も全てを彼に委ねているのにさ」
アスランは初めてトーゴーを見た高校生の時、既に彼を意識し始めたそうだ。お姉さんの護衛になり、姿を見ることも多くなっていつしか夢中になった。
「大学入学を機に彼が私の護衛になった時、どれほど嬉しかったか。英国に一緒に来て、まるで有頂天だったよ」
遠くラメリアから離れ、王室のしきたりや公務からも解放された。トーゴーに対する思いも募る一方のアスラン。だが、護衛兼友人の壁はイチミリも崩れなかった。
――――しかし、トーゴーの護衛はこの瞬間も続いているはずだ。もしかしたら彼のこの独白を聞いているかもしれない。
僕は思わず天井を見る。あいつなら、このヤバイ雰囲気に気付くんじゃないかと。
「トーゴーは私の気持ちには気付いてないよ」
「そ、そうなの?」
アスランは僕の方を向いて悲しい笑みを作る。
「彼は危険に対する察知能力は異常なほど強いけど、こういう……恋愛感情みたいなのには全く気付かないんだよ。近くにいすぎるからかもしれないけど」
それはそうか。なんかそこは鈍そうだしな。でも、アスランも同じじゃないか?
――――けど、今安易に『トーゴーもアスランが好きなんじゃないかな』なんて言えない。僕の鋭くもないカンだけが根拠なのに、そんなことで無駄に喜ばせるなんて出来ない。
「いつか、アスランが気持ちを伝える時が来たらいいね。僕だけでもそうなること、祈っているよ」
彼の落ちた肩に手を置く。見た目よりもずっとがっしりとしている。アスランは小さく『ありがとう』と言った。
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