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第51話 トーゴーの決意(トーゴー視点)
しおりを挟むアスランが大粒の涙を自分のために流してるなど、思いもつかないトーゴーは、いつものように屋上にいた。しかし実は、部屋内での様子に気を配るなどのどころではなかった。
明らかに新たな危機が、ミレンを見つけた時とは全く異質でずっと強い危機が迫っている。その怪しい気配に神経は張り詰めていたのだ。
――――どこにいる。
その怪しい気配がどこから伝わってくるのか、トーゴーはセンサーを全開して探るが、はっきりとした画が見えてこない。
――――間違いなく玄人の登場だ。スパイなのか……最悪の場合は……。
アサシン(暗殺者)。トーゴーは音を立てずに息を呑んだ。二ヶ月前、アスランの部屋を訪れたリヨン大佐の言葉を思い出す。
『宮廷内で不穏な動きがございます』
基本的に政権を持たない王室だ。権力がないのに王位継承争いなんてあろうはずがない。
公務のわずらわしさやプライバシーがない生活を強いられるのだから、手を挙げてなりたい奴などいない。そう、少し前まではそうだった。けれど……。
『レアアースの権利でしょうね。それを手にして、なにか良からぬことを企んでいるのでは』
今までは国民の税金で生活してきた。だからこそ観光業でのパンダにもなった。だが今は、正当な報酬を基に、投資で一族が生活できるほどの収入がある。
『王室の伝統を覆し、実業家にでもなるつもりなのか? まあ、私はそれも悪くないと思うけど』
『アスラン様、なにを呑気なことを仰ってるんですか! それに、そんな生易しいものではないですよ。彼らの望みは』
彼ら……それは、現国王の弟、王位継承権3位のフェリプス殿下とその一派だ。兄であるランス国王とは、ずっとそりが合わなかった。
伝統や国民の生活を重んじる兄とは違い、弟は実利主義。今、政府が執り行っているレアアースの売買も自分たちの手で行い、国を財力で脅かし、手玉に取りたいと考えている……と、リヨン大佐たち、国王派は恐れているのだ。
――――どちらにしても、王位継承者のジョルジュ王子とアスランは目の上のたんこぶだ。自分の仲間に引き入れるか、それが叶わぬなら排除するか。
トーゴーは身震いする。そんなこと、あってたまるか。ジョルジュ王子の考えがイマイチ読めないので、とにかく今夏は帰国するなと大佐が言ってきたのだ。
――――ジョルジュ王子のお気に入り、ミレンがここにやって来た時、フェリプス殿下側に付いたからなのか不明だった。今は違うと考えているのだが……。
肌にピリピリと感じる嫌な気配。これはミレンに感じたものとは明らかに違う。アスランに危害を加えようとする意識が透けて見える。
大使館員に護衛の増員を頼みたいところだが、彼らがどっち側の人間かが確信できない限り、それも出来ない。ミレンについても同様だ。
今朝、それとなく探ってはみたがなにも感じてない様子に見えた。フリなのかただのボケなのか。
――――一人でやるしかない。大丈夫。今までもそうだった。
沙知子がこのところテントに戻ってないと思ったのは真実だった。この二日、トーゴーはほとんど眠っていなかった。
金曜日の夜、盆を過ぎて少しずつ夜風が涼しくなってきた。トーゴーの前髪が風に揺れる。この足元で、アスランが楽しく田中と過ごしている。
自分が命よりも大切な存在であるアスラン。そう思えば、その生活を守ってやりたい。折角大好きな日本にやってきて、こんな醜悪な権力争いに巻き込ませてたまるか。
その大切な彼が、自分を想って身悶えしてるなんて知る由もないトーゴーではあったけれど。
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