王子様と一緒。

紫紺

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第53話 嵐の中の激闘(トーゴー視点)

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 その時、トーゴーはやはり屋上にいた。屋上の雨が掛からない場所で、変わらずにじっと気配を探っていた。
 だが、激しい雨と立て続けに撃ち落されるハンマーのような雷に、さすがに辟易としていた。

 ――――こんな夜は、賊も行動はしないか。

 と思ってそれを打ち消す。

 ――――いや、まさに絶好の機会かもしれん。俺がもしアスランを連れ去るとしたら、今夜を選ぶ。

 仕切り直した瞬間、かすかだが車の音がした。こんな時間、しかもこんな天気に走る車は滅多にない。トーゴーは耳を傾ける。

 ――――数人が降りた音。ヤバイ!

 トーゴーは田中の部屋に行こうとしたが、そこで脚を止める。

 ――――遅い! やられた!

 車が到着するよりも前に、昭和荘周辺に潜んでいたのだろうか。雷雨に気をとられ気付くのが遅くなった。奴らはもう、ドアを破っていた。

「アスラン!」

 トーゴーは屋上からアパートの前の道路に飛び降りた。車に連れ込まれそうになっているアスラン。口にはガムテープが貼られていた。
 屈強そうな男たちが4人。二人はアスランを抑え、今にもバンに押し込もうとしている。そしてあとの二人は銃を構えた。

「ふざけるな!」

 街灯の光と稲光しか光源はなかったが、トーゴーは360度の全てを眼中に納めている。拳銃を持つ一人の男の腕を蹴り上げ、もう一方は肘鉄を右ほおにくらわした。

 「日本で銃を振り回してんじゃねえ!」

 二人相手の乱闘も完全に見切っているトーゴーは、瞬く間に悪漢どもを雨が打ち付けているアスファルト、それぞれたたきつけた。

「アスラン!」

 トーゴーはアスランを車に乗せようとしている連中の胸倉を掴むと、思い切り殴り飛ばした。必死に抵抗していたアスランは、なんとか振りほどいてトーゴーのところに走る。ガムテープも自力で剥がした。

「トーゴー!」
「アスラン、伏せろ!」

 目の前のトーゴーの顔が般若のよう。アスランは驚いて頭を下げしゃがんだ。

 パンッ!

 そのアスランの耳に、どこかで聞いたような音。それは絶対に忘れてはならない危険な音だ。ハッとしてトーゴーを見る。黒のウインドブレーカ―から煙が立ち上っている。

 ――――かすった?!

「トーゴー!」

 再び雷鳴が轟く。アスランは驚いて思わずトーゴーの体を庇うように両手を挙げた。

「馬鹿野郎! なにしてんだ!」

 血相を変えたトーゴーがアスランを押し退ける。

「いやだ! トーゴーになにかがあったら、私は生きていけない! トーゴー!」
「なに言ってる! おまえは俺に守られてたらいいんだよっ! ボケ!」

 再び銃声が響く。トーゴーは自分の逞しい背中にアスランを隠しながら、突進していく。その背を掴もうと泳ぐように手を伸ばしたアスラン。
 だがその時、アスランの目には、信じがたい情景がまるで映画のコマ割りのように映っていた。

 宙に舞う黒光りした拳銃、稲光、腕を抑えて叫ぶ男。そいつを殴り飛ばすトーゴー。そして。

「ミ、ミレン……?」

 今夜ばかりは童顔じゃない。口角をピッと上げ満足そうなミレンが、黒いバンの横に拳銃を掲げて立っていた。



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