王子様と一緒。

紫紺

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第54話 ミレンの正体(アスラン視点)

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 雨がようやく弱くなってきた。同時に雷も遠ざかったのか、余韻を残すようにゴロゴロと鳴らしている。

「銃は使うな」
「お言葉ですが……助けたつもりですけど」

 茫然と立ち尽くすアスランの前で、ミレンはトーゴーにそう言った。二人はさきほど殴り倒した連中を結束バンドで縛り上げ、黒いバンに放り込む。
 運転席には既にミレンにやられたのだろう。気絶した男が結束バンドで縛られていた。

「どういう……どういう、こと?」

 アスランが呪文のようにそう繰り返している。ミレンはその御前で膝をついた。

「公式な挨拶が遅れましたこと、お許しください。私はジョルジュ皇太子付きの諜報部員、ミレン・ナラシュカと申します。此度は、ジョルジュ王子の命により、アスラン様を陰ながらお守りするため来日しました」
「え? ま、まじ! いや、それはまことですか?」

 ミレンがフランス語で語ったのに、アスランは日本語で返してしまった。で、後半はフランス語。

「まあ、トーゴーがいるので、僕としては見守りくらいのつもりでしたけどね」
「けっ。ほざきやがれ。ああ、そうだ。こいつが諜報部員ってのはホントのこと。でも任務の内容は聞いてなかったな」
「簡単には言えません。ジョルジュ王子は思ってもいませんが、アスラン様が本当に味方かどうかはわかりませんから」
「なんだとっ!」

 トーゴーが掴みかかろうとしたところを、アスランが止める。

「それはお互い様だから仕方ないよ。でも誓って言うが、私は兄上を疑ったことなど一度もない」

 そこでミレンも大きく頷いた。

「これはまだ、非公式ではありますが、兄弟仲を裂くように動く、よからぬ勢力があるのだと考えています」
「同感だな。しかし、こんな積極的な形を取るとは思わなかった……」

 そこに、黒塗りの高級車が音もなく数台訪れた。ラメリア共和国大使館の公用車だ。

「アスラン様、大事なかったですか!?」

 大使が車から転がるように降りてきた。日本に長くいてその癖がついたのかは知らないが、腰をくの字みたいに曲げ、揉み手だ。

「大丈夫です。彼らが助けてくれましたので」

 さっと手を振るが、大使は『彼……ら』と首を傾げた。アスランが振り向くと、そこにはもう、ミレンの姿はなかった。

「とにかく、こいつら連れてってくれ、素性がわかったらすぐに教えるように」
「畏まりました。おい、さっさと動け」

 大使の隣で、見るからにがっしりとした男が指示を出した。

「あ、貴方は……」

 トーゴーがさっとその男の前に出る。他の大使館員たちは、黒いバンに乗り込み、襲ってきた連中たちを一人、二人と自分たちの車に運びだした。

 男は整えられた口髭とともに口角を上げ、足を揃えると敬礼した。

「お久しぶりです。リヨン大佐に命じられてはせ参じました。こいつらのことはお任せください。アスラン王子、トーゴー殿」

 それは本国ラメリアでリヨン大佐付きの秘書官、ザイカム中尉という男だった。



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